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江川紹子の「事件ウオッチ」第28回

歴史認識で知日派研究者187人が声明 安倍首相は忠告を受け入れられるか?

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慰安婦の記述に関して、出版社に圧力をかけた問題を問われても、「主張すべき点はしっかりと主張していく」と答えた安倍首相。こうした対応が続けば、かえって国益が損なわれかねない――。(写真は1月29日の衆院予算委員会の様子。衆議院TVインターネット審議HPより)

 米国を中心とした日本研究者、歴史学者ら187人が連名で、日本側の歴史認識を憂慮する「日本の歴史家を支持する声明」(*)と題する文書が公表された。

 署名者の中には、『ジャパン・アズ・ナンバー1』で知られる社会学者のエズラ・ヴォーゲル(ハーバード大名誉教授)、日本近代史が専門で『敗北を抱きしめて』などを書いたジョン・ダワー(マサチューセッツ工科大学名誉教授)、日本の経済や社会構造を専門に研究しているイギリスの社会学者ロナルド・ドーア(ロンドン大名誉教授)ら、著名な知日派学者も含まれている。

知日派からの愛ある忠告

 書面は「戦後日本が守ってきた民主主義、自衛隊への文民統制、警察犬の節度ある運用と、政治的な寛容さ」「科学に貢献し他国に寛大な援助を行ってきた」点を称賛したうえで、歴史認識、とりわけ慰安婦問題について、昨今の日本から発せられる主張に強い懸念を示している。

 慰安婦制度については、(1)その規模の大きさ、(2)軍による組織的な監理が行われた点、(3)植民地と占領地から貧しく弱い立場の女性を搾取した――という点で、戦時における性的暴力と軍隊にまつわる売春の中でも、「特筆すべきもの」と指摘。「強制連行はなかった」という点を強調し、あたかも朝鮮半島で女性たちが自発的に慰安婦になったかのような主張に対しては、「大勢の女性が自己の意思に反して拘束され、恐ろしい暴力にさらされたことは、すでに資料と証言が明らかにしている」として、被害者が受けた残忍な行為から目を背けないよう、たしなめている。

 この文書が重い意味を持つのは、いわゆる「反日」的な人たちからではなく、日本に好意を持ち、日本をよく知る専門家から出されているからだ。書面の冒頭には、「私たちの多くにとって、日本は研究の対象であるのみならず、第二の故郷でもあります」と、“日本愛”が吐露されている。アメリカで奴隷制度を廃止した後も今なお人種差別が残っていることや、欧米を含めた人種差別や植民地支配についても言及されていて、決して「上から目線」で日本を非難している内容ではない。

 しかも、慰安婦問題をめぐっては、「日本だけでなく、韓国と中国の民族主義的な暴言によっても、あまりにもゆがめられてきました」として、日本だけに問題があるわけではないことも、明記している。この声明は英語と日本語で発せられているが、できれば韓国語と中国語のヴァージョンも発表してもらいたいと思う。

現政権による出版社や記者への圧力

 書面全体から強く伝わってくるのは、日本に対する「批判」より、「懸念」「心配」「落胆」と、それでも捨てきれない「好意」「願望」「期待」だ。

 こうした知日派の意見が今の時期に発せられたのは、過去の日本の「侵略」を認める発言を避け続ける安倍晋三首相の歴史認識への懸念や、この夏に出される戦後70年の首相談話への関心が高まっていることに加え、日本政府の歴史認識に関する対外発信のやり方に対する違和感が強まっているからだろう。

 例えば、日本の外務省は昨年11月、米国の高校向けの教科書に慰安婦についての誤った記載があるとして、出版社に訂正を求めた。米国では、日本の教科書検定制度のように国が教科書に関与する制度はないため、この訂正要求は「国家による出版に対する圧力」と受け止められた。今年に入ってから、ウォールストリート・ジャーナルなどの有力紙が、日本政府に批判的にこの問題を報じている。3月には、米歴史学者らが日本政府を批判する声明を発している。