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大西睦子「ボストン健康通信」

食肉原産国表示、義務付け撤廃…遺伝子組み換えサーモンも 食の安全より経済利益優先

文=大西睦子/内科医師、医学博士
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米国に広がる「Non-GMO Project」

 ここ数年間の各州レベルにおける、食品のラベル表示義務化に向けての取り組みは、食品企業やバイオテクノロジー産業によるロビー活動とキャンペーンにより、すべて失敗しています。そこで、米国の多くの食品企業が、自主的に「この食品には、遺伝子操作された成分は含まれていません」というラベルを示しています。

 特に最近、スーパーマーケットに行くと、「Non-GMO Project」というシールが貼られた食品が増えたことを感じています。米紙ニューヨークタイムズによると、現在「Non-GMO Project」のシールが約3万4000の製品に貼られ、年間売上高は約135億ドルになります

FDAによる「Non-GMO Project」への警告

 ところで、私たち人類は、人類にとってより有用な品種をつくり出すため、古くから食物や家畜の「品種改良」を行ってきました。その古典的な方法が「交配」です。人為的に同じ品種間でも違う性質の個体同士を、あるいは突然変異で発生した品種と掛け合わせることで、両者の長所を兼ね備えた新たな品種をつくり出そうというものです。

 例えば、数十年の交配による品種改良の結果、誕生した「ベルジアン・ブルー」というマッチョな牛がいます。ベルジアン・ブルーは、筋肉細胞の発達を抑えるミオスタチンをつくる遺伝子が変異しているため、全身の筋肉が発達していて、軟らかく脂肪が少ない食用肉を多く生産できます。

 しかしながら、思い描いた通りの品種を交配によってつくり出すには膨大な時間と労力を費やしますし、限界がありました。そこで遺伝子組み換えサーモンのような新しい遺伝子操作の技術を用いた食品は、外から切り取ってきた目的のゲノムを、動植物細胞のゲノムDNAに組み込みこんでつくられます。

 FDAの定義による遺伝子組み換え食品は、従来の交配により生み出された食品と、新しい遺伝子操作の技術を用いた食品の両方を含みます。ですので、従来の交配により生み出された食品を含む何千もの「Non-GMO Project」食品は、厳密にはFDAの定義と異なります。そんななか、遺伝子組み換え食品の表示は、新たな課題に直面する可能性が高まっています。

さらなる、遺伝子組み換え食品表示の課題

 最近、「ゲノム編集」という、非常に注目されている新しい遺伝子改変技術があります。ゲノム編集は外からの遺伝子を組み込まず、その生物のゲノム自体を編集するので、変化がはるかに小さくて済みます。この技術を用いて、韓国と中国の研究者が従来の品種改良よりはるかに早い方法でマッチョな豚をつくり上げ、6月30日の「ネイチャーニュース」に取り上げられました。ここでのマッチョな豚をつくるための鍵は、ベルジアン・ブルー牛のような、古典的な交配によるミオスタチン遺伝子の突然変異ではなく、ミオスタチン遺伝子のゲノム編集によります。

大西睦子/内科医師、医学博士

大西睦子/内科医師、医学博士

内科医師、米国ボストン在住、医学博士。東京女子医科大学卒業後、同血液内科入局。国立がんセンター、東京大学医学部付属病院血液・腫瘍内科にて造血幹細胞移植の臨床研究に従事。2007年4月より、ボストンのダナ・ファーバー癌研究所に留学し、ライフスタイルや食生活と病気の発生を疫学的に研究。08年4月から13年12月末まで、ハーバード大学で、肥満や老化などに関する研究に従事。ハーバード大学学部長賞を2度授与。現在、星槎グループ医療・教育未来創生研究所ボストン支部の研究員として、日米共同研究を進めている。著書に、「カロリーゼロにだまされるな――本当は怖い人工甘味料の裏側」(ダイヤモンド社)、「『カロリーゼロ』はかえって太る!」(講談社+α新書)、「健康でいたければ『それ』は食べるな」(朝日新聞出版)。

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