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サザエさん一家は“伝統的な家族”の姿なのか? 「日本の伝統」を疑う

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サザエさん一家は“伝統的な家族”の姿なのか? 「日本の伝統」を疑うの画像1※画像:『「日本の伝統」の正体』(藤井青銅著、柏書房刊)

 私たちはさまざまな「伝統」と呼ばれるものに囲まれて生活を送っている。そんな「伝統」はなんだかありがたいものと思ってしまいがちだが、本当にそれが古くからある「伝統」だと疑ってかかった方が良いのかもしれない。

 そんな日本の伝統に切り込むのが、『「日本の伝統」の正体』(藤井青銅著、柏書房刊)だ。

 本書では、初詣、神前結婚式、大安・仏滅、三世代同居といった「日本の伝統」はいつ、いかにして創られ、日本人は受け入れてきたのかを考察している。

サザエさんは伝統的な「家族の形」と言えるのか?

 かつては大家族、三世代同居という家族が多かった。サザエさん一家がその代表的な例だろう。では、そんなサザエさんファミリーは伝統的な日本の家庭の姿と言えるのだろうか?

 1920年に行われた第1回国勢調査によると、日本の家族構成は、「核家族」54%、「拡大家族」31%、「単独世帯」6.6%だった。それから95年後の2015年の第20回国勢調査の結果では、「核家族」55.9%、「拡大家族」9.4%、「単独世帯」34.6%という結果になっている。

 「拡大家族」はほとんどが「三世代同居」だろう。その家族形態は約100年の間に31%から9.4%になっている。だいぶ減ってしまった。

 では、核家族はどうだろう。この1920年と2015年のデータだけ見れば、ほぼ横ばいだ。実は、核家族のピークは1975年調査の63.9%。これは団魂の世代が結婚して家族を持った時期である。

 テレビアニメ・サザエさんが始まったのは1969年。1970年代の核家族世帯のピーク時にちょうど当てはまる。そんな時代に年齢を重ねないサザエさんファミリーたちがテレビに姿を現したのだ。藤井さんは「70年代の核家族世帯ピーク時に、『昔はよかった』というノスタルジーだったのか?」と疑問を投げかけている。

マトリョーシカ、その起源は「日本」にあり?

 「伝統」というと国内だけで受け継がれ、外国は関係ないものと思うかもしれない。しかし、外国→日本というコース、その逆のコースでできあがる伝統もある。

 例えば、ロシアの伝統民芸品の印象が強い「マトリョーシカ」だが、実は歴史は浅く、それどころか、もともとロシアになかったものだという。

 マトリョーシカの由来にはいくつか説があるが、比較的信頼性が高い説として、藤井さんは「日本・箱根が起源」という説を紹介している。

 箱根とは一体どういうことなのか?

 実はこの土地は昔から木工品が有名で、江戸時代には東海道を往来する人や湯治客を相手に、「十二卵」という土産物が誕生した。これは木で作られた上下に分割できる卵の中に、少し小さな卵、さらに少し小さな卵となっている「入れ子細工」である。そして卵は12個あるので、「十二卵」だ。

 その後、明治に入り、卵は「七福神」に。その一方で、塔ノ沢にはロシア正教の避暑保養所ができる。

 そして1890年代、この保養所に出入りする正教会の修道士あるいは、箱根観光に来たロシアの鉄道王であり大富豪のマモントフ夫妻のどちらかが、この七福神人形を気に入り、ロシアへ持ち帰ったのだという。

 七福神人形は、モスクワ郊外にある芸術家の大パトロンのサロンに持ち込まれ、そこで刺激を受けた芸術家や職人たちが「マトリョーシカ」を作り上げ、1900年のパリ万博での大評判につながる……というのだ。

 これは諸説あるうちの一説である。ただ、現在、「マトリョーシカ」はロシアの名産品として、日本人がよくお土産として買って帰ることが多いのは事実だろう。藤井さんはその行為について、「日本→ロシア→日本」という入れ子細工になっていると指摘する。

 著者の藤井青銅さんは、ラジオの放送作家であり、日本史やお菓子のご当地パイなどにも精通している。ラジオをはじめ、ずっと面白いことを仕事にしてきた藤井さんが「日本の伝統」をどう見ているのか。そんな読み方をするのも面白いかもしれない。
(新刊JP編集部)

※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。

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