余命を伸ばし、要介護を防ぐ、いわゆる健康長寿を実現するためには「適度に欧米化した多様性に富んだ日本食」が欠かせない。地域社会で元気で暮らすシニアを対象としたこれまでの研究成果で肉類、卵、牛乳などの動物性食品と油脂類の重要性が数理統計学的に特に強調されるのは、これらの食品群が持ち合わせている栄養素のコンビネーションがシニア世代の健康問題である老化によるからだの虚弱化を予防するのになくてはならないからだ。
超高齢社会に求められる老化を遅らせるための食事手段のキーワードが「食品摂取の多様性」であることが明瞭になってきたことで、「健康長寿のための食事手段」を開発する研究の第一関門の突破が近づいてきた。“多様性”はいい意味で使われる心地の良い言葉であるが、普段の食事における食品摂取の多様性をどのような尺度(物差し)で評価すればいいのか。このメルクマール(目印、指標)の開発が意外と大変な作業となる。
栄養科学の領域では“バランスのとれた食事”という言葉が使われることがとても多い。よく考えてみると、とても曖昧な言葉である。いったい何をもって“バランスが良い”と判断できるのか、そのメルクマールがはっきりしない。健康長寿を実現する栄養手段がうっすらと見えてきても一般に普及啓発するには、その情報がわかりやすいこと、誰でも簡単に扱えることが必須の条件になる。
さらに重要なのは、開発するメルクマールが健康指標と密接に関係していることを、追跡調査して確認する作業が必要なことである。この作業は研究用語ではコホート研究といわれるが、食品摂取の多様性のメルクマールの優劣でその後の健康状態に明らかな差が生じるかどうかを確認する作業である。
過去には、国が発表した食生活指針のなかに食品摂取の多様性を意識した「1日30品目とりましょう」(健康づくりのための食生活指針/1985年)と「多様な食品を組み合わせましょう」(文部省、厚生省、農林水産省/2000年)という文言がある。これらの指針はなんらかの健康指標との関係を分析し示されたものではなかった。