食品による事故は、下痢、吐き気などの食中毒だけでなく、怪我による事故も考えられます。
学校給食に異物混入が多くみられるという報道もありましたが、食品の中に異物が混入していて、それに気がつかないまま噛んだり飲んでしまうと、大きな怪我をする場合があります。
特に、金属、ガラス、陶器、骨などの硬い異物が混入した場合は、歯を折るなどの大きな事故になってしまいます。レストランで料理の中にガラス片、食器のかけらなどが混入し、子供が口にした場合などを考えるぞっとしてしまいます。
飲食店の厨房でガラスコップが割れると、割れた破片は厨房内に飛び散ってしまいます。蛍光灯なども割れると広範囲に飛び散ってしまうため、厨房内で使用する蛍光灯は、割れた時でも破片が飛び散らない製品を使用する必要があります。ガラスコップ、食器などを洗っているときに破損しても、レタスなどの食材に破片が飛び散らないように、飲食店では食材と食器を洗うシンクは別に設置してあることが必要です。
また、生魚の鱗には腸炎ビブリオ菌が必ず付着しています。そのため、生魚の鱗を取ったり洗ったりするシンクと、刺身を切る包丁やまな板を洗うシンクは別にする必要があります。
実際に魚をさばいてみるとわかりますが、鱗を取る際には思ったよりも厨房内に飛び散ります。したがって、鱗を取るシンクは刺身を切るまな板から充分離れた所に設置することが必要です。生け簀から魚をとって目の前で調理する店がありますが、鱗の付いた魚については十分取り扱いに注意しなければ、食中毒の要因になりかねません。
私たちは、魚を刺身としておいしく安全に食べるために、鱗を取る場所と刺身を切る場所を分ける知恵を見いだしてきているのです。
生魚と同じ様に生肉についても、生肉を取り扱う皿を洗うシンクと、サラダを取り扱うシンクは分ける必要があります。
このように飲食店では、ガラスコップなどの食器を洗うシンク、潜在的に食中毒になる可能性のある食材を取り扱うシンク、生野菜サラダのようにそのまま口にする可能性のある食材を取り扱うシンクの最低3カ所は必要なのです。
私が経験した中国・深センの飲食店では、取り分ける皿、箸置き、箸などを客席に出すとき、沸騰したお湯の中から取り出し、熱々の皿を提供してくれました。熱々の食器を提供することで、安全であることをアピールしているようです。
焼き肉店など、潜在的に食中毒を起こす可能性のある食材を取り扱っているお店では、生野菜サラダなどを提供する食器は、洗剤を使用して洗浄するだけでなく、皿の表面温度が1分以上75度になるように洗浄機などを使用して加熱殺菌するべきです。特に、一部の出血性大腸菌、サルモネラは、菌数が非常に少なくても食中毒を発症する可能性があるので、生野菜サラダなどを提供する食器は、洗浄だけでなく殺菌して提供することが必要です。
飲食店などでは、従業員に衛生教育を行うだけでなく、どうすれば仕組みとして食中毒事故を出さないかを考える時期に来ていると思います。
(文=河岸宏和/食品安全教育研究所代表)