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日向咲嗣『「無知税」回避術 可処分所得が倍増するお金の常識と盲点』第7回

新築戸建て住宅で価格崩壊 首都圏で1千万円台も急増 早まった購入判断に注意

文=日向咲嗣/フリーライター
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新築戸建て住宅で価格崩壊 首都圏で1千万円台も急増 早まった購入判断に注意の画像1新築戸建ての価格崩壊の例

 千葉県609件、埼玉県645件、神奈川県122件、東京都54件……これが何を表している数字か、おわかりになるだろうか?

 リクルートが運営する不動産情報サイト「スーモ」に登録されている、2000万円以下で売り出されている新築一戸建ての件数だ。1都3県を合わせると、ざっと1500件近い数の1000万円台物件が登録されているのである。ちなみに、2004年には100件前後、07年には200件前後であったから、いかに激増しているかがわかる(いずれもスーモの前身「住宅情報ナビ」での同条件検索結果)。

 検索結果を詳しく見てみると、4LDK以上の最安物件は千葉県北西部の1430万円。土地41坪、建物30坪の堂々たる外観。最寄り駅から東京駅まで69分で通勤できる閑静な住宅地に建つ新築の土地付き物件が、大手住宅メーカーの建築価格よりも安いのだから、これぞ驚異のコストパフォーマンスだ。

 もちろん、新築でそんなに安いのは、間取りがいまいち使いづらかったり、駅からの距離が遠かったり、人気のない私鉄沿線だったりといったデメリットが必ず潜んでいるのだが、それにしてもマイホーム購入希望者からすれば、あっと驚くインパクトは十分あり、一度その価格を知ってしまうと、ほかの物件がすべて高く見えるから不思議だ。

 ひとつの物件を複数の不動産仲介業者が登録しているため、実際に購入検討対象になる物件数はこの数分の1になってしまうものの、それでも1000万円台の新築一戸建は首都圏でも、いまや珍しくもない存在になっているのは間違いない。

価格崩壊の立役者、パワービルダー

 新築戸建て市場崩壊の立役者となっているのが「パワービルダー」だ。

パワービルダーとは、1990年代後半から主に関東地方で大量に低価格の戸建てを分譲するようになった住宅建築会社のことで、現在主要各社はどこも全国展開していて、一社だけでも年間数千棟規模の住宅を建てている。ちなみに、13年に関連6社が経営統合して生まれた飯田グループホールディングスは昨年度、傘下企業だけで合計3万6000棟も分譲している。

 パワービルダーが分譲する物件の最大の特徴は、建売住宅の価格の圧倒的安さにある。建材の共通化や工期の短縮など、徹底したコスト管理により、従来の大手に比べると2~4割は安いと言われる販売価格を実現している。30坪・標準4LDKの間取りで、大半の物件が2000万円台だ。郊外で地価の安いところになると、1000万円台で新築戸建てを分譲している。

 また、一般的なデペロッパーとは異なり、自社内に販売部門を持たず(持っていても、ごく小規模)、販売活動は原則として成功報酬で、地元の不動産仲介会社に委託するのも大きな特徴だ。在庫を抱えることを極端に避ける傾向があるため、売れ残ったら大胆に価格を下げる。一度に200~300万円単位で下げることも珍しくない。例えば、売出価格3180万円の物件が2週間余りの間に4回も価格改定が行われて、1000万円もの大幅プライスダウンが行われたケースすらある(図版参照)。

 洋服のバーゲンと同じで、単独でみたら赤字でもプロジェクト全体で黒字であればよいとの姿勢で、完成後一定期間売れなければ、ほとんど捨て値といってもいいくらいの価格にまで下げることもある。

 まるで住宅を大量生産の工業製品と同じようなポジションにしてしまったことこそが、パワービルダーの最大の功績といえるだろう。

郊外では不動産デフレに拍車

 パワービルダーの物件を品質面で大手ハウスメーカーと比べると、細部は見劣りしてしまうかもしれないが、かつて「安かろう悪かろう」といわれた建売住宅と違い、基本構造は最新の耐震基準をクリアして10年保証もついており、安全面に問題はない。

 たとえるなら、高級車に乗る優越感はないものの、日常的にはまったく不便を感じない大衆車のような快適さをパワービルダーの物件は提供しているのである。

 注目すべきなのは、それが不動産相場に与える影響の大きさである。例えば、今まで2000万円で売りに出されていた築25年の中古物件と同じ価格帯で、パワービルダーが新築一戸建て物件を分譲すると、どのような事態が起こるだろうか。「古家付き2000万円の土地」には、もはや誰も目もくれなくなる。何しろ、新築のほうは、同じ広さの土地の上に新しい建物まで付いて2000万円なのだ。

 このようなことが続くうちに、郊外の住宅地における不動産価格はどんどん下がっていくのである。アベノミクスの歴史的な金融緩和によって、不動産価格は右肩上がりのようなイメージが先行しているが、それは都心にある一部のマンションや人気沿線に限った話だ。少し郊外の住宅地に目を転じると、いまだにすさまじいまでの不動産デフレの現実を目のあたりにできるのである。

 従って、11月4日付当サイト記事『「同額の家賃を払い続けるなら、ローンで購入のほうがオトク」のワナ』でも述べたように、ろくに情報収集もせずに早まった購入決断をすると、後悔する可能性が高いので注意したい。

 賃貸住宅の世界で起きている「家賃崩壊」と同じく、分譲の世界でも「価格崩壊」が起きていることをしっかりと頭に入れたうえで、慎重に将来のマイホーム計画を立てたいものである。
(文=日向咲嗣/フリーライター)

日向咲嗣/ジャーナリスト

日向咲嗣/ジャーナリスト

1959年、愛媛県生まれ。大学卒業後、新聞社・編集プロダクションを経てフリーに。「転職」「独立」「失業」問題など職業生活全般をテーマに著作多数。2015年から図書館の民間委託問題についてのレポートを始め、その詳細な取材ブロセスはブログ『ほぼ月刊ツタヤ図書館』でも随時発表している。2018年「貧困ジャーナリズム賞」受賞。

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