全国展開する刑事事件専門のアトム法律事務所がホームページ上に掲載した漫画が、インターネット上で物議を醸している。強姦事件について、どのようなかたちで刑事弁護のサービスを行うかをわかりやすく伝えるという趣旨のようなのだが、話の流れがあまりにもひどいのだ。
「漫画でわかる!強姦事件解決までの流れ」と名付けられたこの漫画。サラリーマンの男性が、強姦事件を起こして警察の取り調べを受ける場面から物語は始まる。
男性は、「前科がついたら仕事はクビになる」「家族にバレたら家庭は崩壊」「新聞やネットに載ったら人生終了だ」と絶望し、高層ビルの屋上で自殺を考えるのだが、そこに「ちょっと待って!落ち着いてください!!」と弁護士が登場。「私たちに相談すればあなたの不安や悩みを解消することができます!」と自信に満ちた笑顔で諭し、被害者と示談に持ち込んで不起訴に持ち込めばよいと語る。
日本では、一度起訴されてしまえば有罪率は99%以上。有罪になってしまう社会的不利益はあまりにも大きい。不起訴に持ち込めれば、前科もつかず、その後の人生が大きく崩れることは避けられるだろう。
そしてこの漫画では、弁護士の奮闘もあって被害者との示談が成立し、男性は無事不起訴になった。弁護士は「今回事件が無事解決したのは、あなたの素早い判断のおかげです。次からは気をつけてくださいね」と満面の笑み。そして最も問題のシーンは最後だ。男性は以前と変わりなく会社に出勤し、「今回のことは誰にもバレてないようだ…。よおし、今晩は久々に一杯やるか!」とホクホク顔のアップで漫画は終わっている。
これに対して、ネット上では「クズすぎる」「あまりに配慮に欠けている」などと批判が噴出。もちろん漫画の中の被害者は、弁護士の説得により納得した上で示談にしたのだろう。男性が不起訴になること自体は別に問題はない。弁護士は自分の仕事を正当にこなしただけであり、この事務所に相談すればきっとこういう流れになるのだろう。
しかし、これではまるで、強姦しても弁護士に依頼すれば、なんら制裁を受けることもなく社会生活を継続できるといっているようにも受け取れる。しかも最後に「一杯やるか」で終わらせており、男性は強姦事件を起こしたことに対して反省の色も見せていない。こうした内容を、法律事務所の広告とするのは明らかに問題だろう。
あまりにも批判の声が大きく、事態を察知した同事務所は、漫画を削除し、「本サイト掲載の漫画上で、配慮に欠けた表現があったことを深くお詫びします。当該漫画を削除し、今後は再発防止に努めます」と謝罪文を掲載している。
以前からこの事務所は、「事件を起こしても不起訴に持ち込む」ということを売りとして広告を出し、問題視されていた。依頼者の利益のために動くこと自体は問題ないが、今回のような広告をつくっていたら、弁護士は犯罪揉み消しの片棒を担いでいる商売だと思われかねないのではないか。今後は品位が疑われるようなものを掲載しないでもらいたいものだ。
(文=則本正義/フリーライター)