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渡邉哲也「よくわかる経済のしくみ」

ヨーロッパ、各国が国境封鎖で混沌的危機に突入…テロ・難民・経済格差で制御不能状態

文=渡邉哲也/経済評論家
ヨーロッパ、各国が国境封鎖で混沌的危機に突入…テロ・難民・経済格差で制御不能状態の画像1「Thinkstock」より

 本連載前回記事で、ヨーロッパの現状について見てきたが、今回は移民問題について論じたい。

 2015年、中東の混乱によって生まれた大量の難民・移民がヨーロッパに押しかけたことが大きく報じられた。そして、ヨーロッパは当初、これらの人々を受け入れる方向で進んでいたが、その後状況が変わりつつある。

 ヨーロッパの移民問題を考える時、大切なルールが2つある。シェンゲン協定とダブリン規制である。

 シェンゲン協定とは、同協定が適用されるヨーロッパ26カ国(シェンゲン圏)の中で、ヒト・モノ・カネの移動を自由にするものであり、この間には国境や税関などの物理的制限を設けないというものだ。いくつかの国が統合する際の、前段階といえる。

 また、ダブリン規制とは、移民を最初に受け入れた国が難民審査を行い、審査が行われるまでは他国に移動させないというものだ。

 つまり、ヨーロッパにおける難民は、まず「卵の殻」に該当する国がしっかりと審査を行い、難民審査に合格した者だけを認定し、その後はシェンゲン圏内であれば自由に移動を認める――という概念であった。しかし、膨大な数の難民が押し寄せたことによって、ダブリン規制が事実上破綻してしまったのが現状だ。

 また、ドイツのメルケル首相が特に移民の受け入れに積極的な姿勢を示したため、多くの難民は一気にドイツを目指した。これも、ある意味でダブリン規制の崩壊を意味することとなった。

 さらに、昨年11月に発生したパリ同時多発テロ事件により、難民問題に大きな変化が訪れている。この事件では、実行犯の数人が中東からの難民にまぎれてヨーロッパ入りしていたことが明らかになっている。その結果、フランスはもちろん、ほかのヨーロッパ諸国およびアメリカでは、シリアからの難民受け入れに慎重な姿勢を見せている。

 また、フランスはテロ事件の直後から国境を封鎖した。難民の流入を防ぐため、テロ事件以前から国境を封鎖していた国もある。EU(欧州連合)やユーロにより「国境なきヨーロッパ」を目指していたはずが、再び国境がつくられてしまったわけだ。

 ヨーロッパのタイムリミットは迫っている。基本的に移民や難民は温かい春から夏にかけて大量発生し、寒い冬場はその勢いが急激に低下する。しかし、現在、その勢いがほとんど低下していないのだ。このまま暖かい春を迎えた場合、これまでの数倍から数十倍の移民が押し寄せる可能性がある。

 これを受けて、EUでは移民協議が行われているが、その議論の中で、難民の入り口となっているギリシャのシェンゲン協定を停止する、国境を復活させる、などの過激な意見が噴出している状況である。そして、今回の事態を招いたメルケル首相に対する風当たりは国内外ともに強くなっている。

 前述のシェンゲン協定が現状のままであれば、難民(あるいはテロリスト)の移動は自由であり、すべての移動を捕捉することは不可能だ。仮にほかの国でもテロが起きるようなことがあれば、当然ながら、国境封鎖の動きは加速するだろう。

テロとの戦いはなぜ終わらないのか?

 そして、最大の問題が、テロとの戦いは解決しないという点にある。国家対国家の場合、トップ間の話し合いが成立することによって、戦いは終焉する。通常、国家はピラミッド型の権力構造になっているため、そのトップ同士の和解が終戦を意味するわけだ。

 しかし、テロ組織というのは、ゲリラ戦を得意とすることからもわかるように、アメーバのような構造体になっている。きれいなピラミッド型ではなく、リーダーが複数存在するため、1人のリーダーを倒しても組織の大勢には影響しない。むしろ活動が活発化するだけで、問題はまったく解決しないのである。

 パリのテロ事件を受けて、国際社会は「テロとの戦いに尽力する」という共同声明を出した。これは、「解決しない問題」に対するひとつの答えであるといえる。いずれにせよ、ヨーロッパの分裂問題は、難民、テロ、そして経済格差という3つの軸を持って進んでいくことになるだろう。
(文=渡邉哲也/経済評論家)

渡邉哲也/経済評論家

渡邉哲也/経済評論家

作家・経済評論家。1969年生まれ。
日本大学法学部経営法学科卒業。貿易会社に勤務し独立。複数の企業を経営、内外の政治経済のリサーチや分析に定評があり、政策立案の支援、雑誌の企画監修、テレビ出演等幅広く活動しベストセラー多数、専門は国際経済から金融、経済安全保障まで多岐にわたり、100作以上の著作を刊行している。

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