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江川紹子の「事件ウオッチ」第60回

「日本国の象徴」とはーー天皇陛下の【お気持ち表明】に思う

文=江川紹子/ジャーナリスト
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 テレビは特番を組む一方で、多数のバラエティ番組を放送中止とした。日産自動車「セフィーロ」のCMから、歌手の井上陽水が「皆さん、お元気ですか」と呼びかける音声が消え、「生きる歓び」をキャッチコピーにしたトヨタ自動車「カリーナ」のCMも自粛となった。女優が「ついにその日が来ました」と語る、チョコレートの新製品発売のCMも消えた。バカバカしいほどの自粛モードがテレビ界を覆った。

 実社会でも、さまざまな祭りやイベントが次々と中止や延期となった。総事業費8億円規模で行われるはずだった国際的なファッションショーも中止。忘年会や新年会はほとんど行われず、クリスマスパーティーも自粛で、年賀葉書も売れ残った。当然、経済にも負の影響が出る。

 プロ野球セントラル・リーグは中日ドラゴンズが優勝したが、恒例のビールかけは中止となった。日本シリーズでは西武ライオンズ(現埼玉西武ライオンズ)が優勝したものの、西武百貨店での優勝記念セールは取りやめとなった。神奈川県三浦市の国際市民マラソンも、スポンサーの意向で自粛になった。

 崩御の時に「自粛ブーム」はピークに達し、全国高校ラグビーの決勝戦は中止になった。音楽会の延期が相次ぎ、オペラ公演も中止、テレビは特番一色となり、それに倦んだ人々がレンタルビデオ店に足を運んだ。

 こうした異常な現象は、あの時だけのものなのか。

 東日本大震災の時にも、お花見が「自粛」となり、テレビからは長くCMが消えたことは記憶に新しい。熊本地震の時にも、バラエティ番組が放送延期になった。被災者など、災いの当事者にとってはほとんどなんの役にも立たないにもかかわらず、日本人の“自粛好き”は根強い。加えて、インターネットが普及し、“不謹慎狩り”などという現象が出る状況で、自粛圧力は昭和終焉の頃より強くなっているように思う。

 陛下が、今の立場のまま「健康を損ない、深刻な状態に立ち至った場合」あるいは「天皇の終焉」を迎えた時、マスコミやその他の企業だけでなく、一般の人たちの間にも、批判を恐れて昭和天皇の時以上に過剰な自粛が広がることは容易に想像がつく。ただでさえ経済が思うように回復しないなか、どれほどの「社会の停滞」を招くだろうか……。

 ところで、3年後にはラグビーワールドカップ、4年後には東京でオリンピック・パラリンピックが開かれる。陛下が今の立場のまま、不幸な事態がその時期と重なってしまった場合、いったいどうするのだろうか。

 こうした国際的なイベントを、日本の都合で延期するわけにはいかない。では、「日本国の象徴であり日本国民統合の象徴」を失うという、国家としての弔事となった場合、慶事の自粛が求められる一方で、どのようにしてこのイベントを祝い、盛り上げるのか。国民は海外の人々を、どうやって「おもてなし」するのか。訪れるほうも、どういう対応をしたらいいか困るのではないか。

 考えたくないことだが、いざという時に「想定外」ではすまされない。

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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