8月12日に米バージニア州シャーロッツビルで起きた白人至上主義者と反対派の衝突は、決して孤立したケースではない。ある意味、象徴的な事件として必然的に起きたケースと言っても過言ではない。この事件は、ドナルド・トランプ氏が大統領に選出されていなければ起きていなかっただろう。ヘイトクライム・リサーチネットワークのランディ・ブラザック所長は、この事件についてこう語る。
「オルタナ右翼が主流の政治議論にプレゼンスを持ち、多文化国家の中で白人が窮地に立たされた苦悩について堂々と話せるということが、勝利である」
オルタナ右翼はalt-rightと表し、alternative rightが元になった英語である。「アメリカ保守主義の主流の代わり(alternative)の思想」という意味で、最近特にメディアに頻繁に登場する。そもそも、オルタナ右翼という名称の組織があるわけではない。alternativeには<主流から外れた>というニュアンスがあるが、トランプ旋風に乗じて非主流から主流に入り込むことに成功した思想といえる。
アメリカには、白人至上主義団体・KKK(Ku Klux Klan)の流れをみてもわかるように、白人至上主義は昔からあった。オルタナ右翼が主流に入る起爆剤になったのは、2015年6月16日にマンハッタンのトランプタワーでトランプ氏が行った「大統領選出馬宣言」だった。
“Make America Great Again!”(アメリカを再び偉大にする!)というスローガンは、オルタナ右翼の思想をそのまま表しているかのようであった。この“Great”は“White”と同義語であると言ったのは、プリンストン大学歴史学の名誉教授のニール・アービン・ペインター氏だ。彼女は11年に『The History of White People』(白人の歴史)を上梓して耳目を集めた。
「これまで白人というのは人種のアイデンティティの中に入れられていなかった。白人という人種は印のないデフォルトのようなもので、人種問題というときに白人は入っていなかった。トランプが大統領に選出されたことが白人のアイデンティティのターニングポイントになった」(16年11月12日付ニューヨークタイムズより)
1970年にはアメリカ人の12%が非白人だったが、今や非白人はその倍となり、白人が住んでいる町に移民として定住しているという。過激思想を持つ組織を監視しているサザーン・ポバティ・ロー・センター(Southern Poverty Law Center)のリチャード・コーエン所長は、筆者の取材に「この15年、ヘイト・グループが急増しているが、それはこの人口動態の変化が要因のひとつである。白人至上主義といわれているオルタナ右翼の台頭も、白人のアイデンティティ危機の反動である」と答えた。
確かに、人種差別撤廃を要求する公民権運動が活発に行われてからというもの、主流のアメリカ政治や文化の中で白人のアイデンティティに関する言語はタブーであった。それをぶち破ったのが、トランプ氏だった。