今夏も各地で開催された「恐竜展」。家族と共に訪問し、巨大な骨格を堪能したという方も多いだろう。そんな読者のみなさまの中には、子どもに請われて恐竜の図鑑を買い与えたり、自分自身も興味が出てきて書店に並ぶいわゆる“恐竜本”に手を出したりしたという人もいるかもしれない。
少しでも「恐竜の進化」を扱った企画展や書籍であれば、知られている限りもっとも古い恐竜たちが、わずか全長1mほどの小型種であったことに言及していたはずだ。全長10mを超える大型肉食恐竜も、全長30mを超える巨大な植物食恐竜も、その始祖は現在の大型犬ほどの大きさしかなかった。
恐竜の進化を見たときに「最初は小型種で、のちに大型種が現れた」という話は、よく知られている。そもそも、10mオーバーの大型種がポッと出現するとは考えにくく、その前の段階により小さな個体がいたということは、おそらく多くの読者に納得してもらえることと思う。
さて、今回はそんな恐竜の進化がテーマというわけではない。
恐竜は小型種からスタートした。それはよしとしよう。では、恐竜が登場する前の地上には、どのような動物がいたのだろうか。
今夏に恐竜を堪能された方は、ぜひ、ご家族で“一歩先のエンターテインメント”を議論していただきたい。「恐竜を見た」だけで終わらせてしまうのは、ちょっともったいない。
恐竜の前に存在した陸の支配者は?
最古の恐竜の化石は、中生代三畳紀という時代につくられた地層から見つかっている。「三畳紀」とは、今から約2億5200万年前~約2億100万年前を指す。三畳紀の前の時代は「古生代ペルム紀」と呼ぶ。約2億9900万年前~約2億5200万年前だ。
最古の恐竜の登場よりも昔なので、当然のことながらペルム紀には恐竜はいない。ペルム紀において地上生態系の頂点にいたのは、「単弓類」と呼ばれる動物たちだった。ペルム紀前期においては、単弓類の中でも特に「盤竜類」【※1】と呼ばれるグループが隆盛を極め、後期においては「獣弓類」という単弓類グループが君臨した。
盤竜類の代表的な種は、背中に“帆”のあるディメトロドン(Dimetrodon)という動物である。全長2mほど。四肢はまるでワニのように側方に突き出しており、頭部は大きく、口には鋭い歯が並んでいた。特徴的な姿をしているので、「あ、これは見たことがあるかも!」という読者もいるかもしれない。
獣弓類の代表種はいくつもあるが、「地上生態系の頂点」という視点から「イノストランケヴィア(Inostrancevia)」を挙げておこう。ディメトロドンと比べると、四肢はほぼ真下に伸び、胴体が地面から離れている。背には帆を持たず、上顎の先端からは長い犬歯が伸びていた。全長は3mに達する。
これらが、ペルム紀の肉食動物としては代表的な存在といえよう。ちなみに、盤竜類と獣弓類が属する単弓類には、実は私たち哺乳類も属している。ペルム紀当時には哺乳類はまだ登場していないが、いわば「哺乳類の親戚」ともいえるグループが恐竜登場直前の地上世界に君臨していたのだ。
『古生物たちのふしぎな世界』 恐竜だけが古生物じゃない! 前恐竜時代にもさまざまな古生物が生きていた。三葉虫が繁栄し、アノマロカリスがカンブリア紀の覇者となる。デボン紀にはアンモナイトの仲間がまっすぐのびた円錐形からしだいに丸くなり、ティクターリクが“腕立て伏せ”をはじめる。古生代最後のペルム紀には、イノストランケヴィアをはじめとする単弓類が覇権をにぎる! ダイナミックかつドラマチックな古生代の物語。100点に及ぶ精緻なカラーイラスト&化石写真で解説!
