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米山秀隆「不動産の真実」

所有者不明の土地、北海道の面積に匹敵へ…国土荒廃が現実味、所有権放棄ルールの必要性

文=米山秀隆/富士通総研経済研究所主席研究員
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所有者不明の土地、北海道の面積に匹敵へ…国土荒廃が現実味、所有権放棄ルールの必要性の画像1「Gettyimages」より

増える所有者不明土地と当面の対策

 登記簿などの台帳を見ても、所有者がただちに判明しないか判明しても連絡がつかない土地が増えている。人口減少が進むなか、資産価値が低いなどの理由で、相続時に登記されない土地が増えていることによる。近年は相続放棄されるケースも増えている。

 所有者不明土地問題研究会(座長:増田寛也・元総務相)の推計(2016年時点)によれば、全国の土地の所有者不明率は20.3%、410万haに達し、九州の面積を上回る。地目別では、宅地14.0%、農地18.5%、林地25.7%となっている。さらにこの面積は、2040年には北海道本島の面積に匹敵する720万haに達すると推計している。

 所有者不明土地対策については、国土交通省は2016年3月に出した報告書「所有者の把握が難しい土地への対応方策」において、所有者探索の円滑化の必要性を指摘し、関連制度を活用するためのガイドラインを策定している(2017年3月に第2版を公表)。

 また、所有者不明土地の利用を促す仕組みとして、所有者がわからなくとも利用できるよう、利用権設定を可能にする仕組みが新たに導入された(所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法が2018年6月に成立)。都道府県知事の裁定により所有者不明土地の利用権を設定し、補償金を供託した上で公共性を持つ事業に使えるというものである。遊休農地の場合は、都道府県知事の裁定によって利用権を設定し、農地中間管理機構が補償金を供託した上で利用権を取得できる仕組みがあったが、同じような仕組みが所有者不明土地についても導入されることになる。所有者不明土地の存在で公共事業が滞っているようなケースにおいて、利用が期待されている。

 一方、相続時の登記を促すため、登記義務化の必要性がしばしば指摘されるが、これについては、2018年度中に法相の諮問機関である法制審議会に諮問されることになっている。ただし、義務化しても罰則強化は難しく、実効性を持たせることができないとの難点も指摘されている。登録免許税等の登記費用の総額が土地の価値を上回る場合は、義務化されても登記を促進する効果はあまりないと考えられる。義務化よりは、登録免許税の減免措置を導入し、さらに将来的には安価な手数料とすることで、コスト面で登記を促していくほうが現実的とも考えられる。

相続放棄が増える可能性

 
 今後については、所有者不明の物件がさらに増えていく可能性を考えると、事後的に所有者探索に多大なコストをかけたり、利用するにしても利用権設定の手続きに煩わされたりするよりは、いっそ最初から所有権放棄を認め、積極的に公的管理に移しておいたほうが、その後、管理するにしても利用するにしても好都合だと考えることもできる。

 所有権の放棄については、現状では所有権の放棄はしたくとも手段がなくできないが、相続放棄すれば国に引き取ってもらうこともできる。相続放棄は不要な不動産のみを選択的に行うことはできず、遺産すべてを放棄しなければならないが、相続人全員が相続放棄して相続人不存在となった場合、自治体などの申し立てによって選任された相続財産管理人が換価して残余があれば、国庫に納付される。

米山秀隆/住宅・土地アナリスト

米山秀隆/住宅・土地アナリスト

1986年筑波大学第三学群社会工学類卒業。1989年同大学大学院経営・政策科学研究科修了。野村総合研究所、富士総合研究所、富士通総研等の研究員を歴任。2016~2017年総務省統計局「住宅・土地統計調査に関する研究会」メンバー。専門は住宅・土地政策、日本経済。主な著書に、『世界の空き家対策』(編著、学芸出版社、2018年)、『捨てられる土地と家』(ウェッジ、2018年)、『縮小まちづくり』(時事通信社、2018年)、『空き家対策の実務』(共編著、有斐閣、2016年)、『限界マンション』(日本経済新聞出版社、2015年)、『空き家急増の真実』(日本経済新聞出版社、2012年)など。
米山秀隆オフィシャルサイト

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