
「出生率」「死亡率」、出生数から死亡数を引いた「自然増減率」、「脳血管疾患率」「婚姻率」、死因別死亡率の「がん」、「自殺率」……この7項目すべてで全国ワースト1となった地方をご存じだろうか。それは秋田県だ。国立社会保障・人口問題研究所によれば、現在約98万人の県人口も2045年には約60万人に減少するという。
筆者は、その秋田県の出身だ。父方の祖父は脳梗塞で倒れ、近隣住民には自殺した人もいる。「このまま地元にいても未来がない」と考えて、大学進学を機に秋田を離れて上京した。
一方で、これらの項目が全国ワースト1となったことに対しては「ネガティブな数値がクローズアップされたものにすぎない」との見方もある。たとえば、あまり知られていないが、秋田県では今、若者の移住者などが増加しているという。
秋田県秋田市にある国際教養大学教授の熊谷嘉隆氏は、「秋田県は世界のモデルケースとして、これから注目されていく地域です」と指摘する。
東京より豊かな生活を可能にする「3つの環境」
まず、移住者の増加について説明しよう。秋田県の人口減少は、学校を卒業した若者が県外に流出してしまうことが主な要因とされてきた。しかし、近年は移住者やAターン(秋田県へのUターン・Iターンの総称)が増加傾向にあるという。
なぜ、秋田県への移住者が増えているのか。熊谷氏は、その理由として「教育環境」「住環境」「自然環境」の3点を挙げる。
「秋田県は文部科学省の全国学力テストで、小中ともにトップクラスの成績です。また、賃貸住宅の家賃も安く、持ち家率は全国で2位。さらに物価も安いので、エンゲル係数は東京に比べてかなり低い。確かに給与水準は東京に比べて3割ほど下回っていますが、教育環境、住環境、豊かな自然環境が相まって、生活水準は東京よりも相対的に高いといえます」(熊谷氏)
給料はそれほど高くないかもしれないが、価値観を「豊かに生きること」に置けば、若者にとって秋田は魅力的な土地になり得るわけだ。
実際、近年は地元企業に就職する若者が増え、県外から移住して新しい事業を立ち上げる若者も増加している。17年度の秋田県への移住者数は177世帯314人で、過去最高だった16年度の137世帯293人を上回ったほどだ。
秋田県中央部に位置する南秋田郡五城目町では、ベンチャー企業が廃校になった小学校をシェアオフィスにする取り組みを始め、そこをベースに起業する若者も出てきている。
「最近は、スキルの高い若者の移住者が目立ちます。そういった若者が成功例をつくることで、そのネットワークに引きつけられた移住者が増えるという好循環が生まれる。また、県外に出ようと考えていた地元の若者が革新的な取り組みを目の当たりにすることで、彼らの秋田への眼差しも徐々に変化しています」(同)
地方の若者が「都会に行きたい」と思うのは自然なことだ。しかし、そのうちの何割かが戻ってくれば、都会で培ったネットワークや経験を地方で生かすことができる。それが今、秋田で起きているのだ。