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ケースで見る!「働くハイスペック女子」への処方箋

職場で更年期障害とみられる女性への適切な対応 自身が更年期だと感じた場合の対処法

文=矢島新子/産業医、山野美容芸術短期大学客員教授、ドクターズヘルスケア産業医事務所代表
職場で更年期障害とみられる女性への適切な対応 自身が更年期だと感じた場合の対処法の画像1「Gettyimages」より

 このまま永遠に続くんじゃないかとすら感じられた今年の夏も終わり、すっかり季節は秋となりました。

 キャリア女性といえば、一般的には、クールでものごとに動じない強い女性のイメージだったりもしますが、実は最近、衝動的な行動による問題を引き起こしたキャリア女性に関する相談がとても増えてきています。

 経済産業省の「健康経営における女性の健康の取り組みについて」によれば、管理者として対処に困った経験のある女性従業員の健康課題や症状についてアンケートをとったところ、実に6割もの管理者が「メンタルヘルス」と答えています。ある一時期、女性社員や管理職を急激に増やしてきたことが、メンタルヘルスの問題が増加している一因となっている可能性は否定できません。

 また、ハイスペック女子のメンタルヘルスにまつわるいくつかの事例について、過去にもこのエッセイで書いたことがありますが、実際のところは、新たに管理職となったりしてストレスがかかることが多い年代にあたる30代くらいの若い世代よりは、むしろ「かつてのハイスペック女子」ともいうべき40代後半から50代ぐらいの世代に、企業として対応に苦慮するケースが多くみられているようです。

 これは本来的には、純粋な「メンタルヘルス」の問題というよりは、女性特有の更年期に関連した衝動的性向のひとつのあらわれとして対処すべき問題であるにもかかわらず、適切な対応がとられていないケースが少なからず含まれているからではないかと、私は思っています。人生の「秋」をどう幸せに乗り切るか、というのはハイスペック女子にとっても重要な課題です。

「混ぜるな危険」

 個人差はあるものの、更年期は45歳から55歳くらいの時期に迎える方が多いようです。この時期、卵巣の働きが衰え、卵巣から出る卵胞ホルモン(エストロゲン)の分泌は徐々に少なくなってきます。これに対抗するため、すなわち働きの悪くなった卵巣をなんとか働かせようとして、脳の下垂体という部分から、卵巣をコントロールするための性腺刺激ホルモンが大量に分泌されます。簡単にいえば、このホルモンの大量分泌によってある種の興奮状態となり、自律神経も刺激されて、心身の失調をきたすことがあるのです。

 たとえば、人によっては精神的にイライラしたり体の重だるさを感じたりしますし、場合によっては発汗や肩こりがひどくなったと感じたりもします。またこの年代は、業務上の役割の変化、健康問題、親の介護、子供の受験などさまざまな生活上の変化が起こる時期とも一致しており、心身の負担はとても大きなものになりがちです。

 本来であれば、こうした心身のリスクに自分で早めに気づき、必要に応じて適切に相談をしたり治療を受けたりしながら自己管理をしていくべきなのでしょうが、それは必ずしも容易なことではありません。他人が、特に職場において、ある人の行動に更年期の影響を指摘することは、明らかなセクハラにあたります。

 その一方で本人自身は、いろいろな意味で自分を見つめなおす余裕がなくなってしまっており、結果として状況を改善する機会を逃してしまうことは、残念ながらよくあるようです。ハイスペック女性であればなおさら、自己評価の高さから、進んで周囲に相談することが難しいということはあるでしょう。そんな場合、会社で身近にいるあなたはどう行動したらよいのでしょうか。

 もし、みなさんの周囲に衝動的な問題行動を起こす女性がいる場合、「更年期障害でイライラしているのではないのですか?」などと聞いてはいけません。できれば上司から、組織として受け入れられない行動について具体的に指摘をし、改善を求めてもらうことです。その一方で、感情の管理が難しいようであれば、産業医に相談をするよう促します。必要であれば、そこから外部の心療内科や精神科、婦人科を紹介し、受診させることができます。ポイントは、不適切な行動は行動として冷静に指摘をし、その背景に体調や感情の問題がありそうなら、その対応は分離して医師に委ねることです。「混ぜるな危険」ということです。

自分で自分のコントロールを取り戻す

 では、あなた自身が当事者になってしまったら、どうしたよいのでしょうか。イライラしているとき、ある程度自分で自分のコントロールを取り戻すことができるようにする方法があります。私は、悩みを抱えて面談にやってくる女性に次のような方法をアドバイスしています。

(1)思考を一時停止する

 イライラして爆発しそうなときは、ちょっと間を置くと、反射的にキレることを防ぐ効果があります。数秒間、時間をかせぐだけでいいのです。反射的に行動することをストップできると、脳の中で感情をつかさどる大脳辺縁系が優位な状態から、感情をコントロールする大脳皮質の活動が優位になって、冷静になることができます。

(2)いい部分に目を向ける

 たとえば会社の上司や部下、同僚などに対してイライラする感情を持ったのなら、彼らが過去にしてくれた手助けや、かけてくれた優しい言葉を思い出すようにします。

(3)怒ったときの記録を残す

 自分が怒った理由がわかり、怒りのパターンが把握できます。どんなきっかけで怒りやすいかがわかれば、そうならないようにすることもできますし、怒りがエスカレートしないような対策を講じることができます。別の言葉で言えば、怒りを客観化し、「怒っている自分」をメタ認知すれば、怒りに対処しやすくなります。

(4)相談相手を持つ

 自分の感情を吐き出すだけで怒りが収まることもあります。ため込んだり、抑え込んだりすると、ストレスが積み重なってしまいます。

 人生の秋は、もの悲しいものでも、強風吹きすさぶものでもありません。ハイスペック女子の秋が実り多きものでありますように。
(文=矢島新子/産業医、山野美容芸術短期大学客員教授、ドクターズヘルスケア産業医事務所代表)

矢島新子/産業医

矢島新子/産業医

矢島新子
山野美容芸術短期大学客員教授。ドクターズヘルスケア産業医事務所代表。東京生まれ。東京医科歯科大学医学部卒。パリ第1大学大学院医療経済学修士、WHO健康都市プロジェクトコンサルタント、保健所勤務などを経て産業医事務所設立。10年にわたる東京女子医科大学附属女性生涯健康センターの女性外来、産業医として数千人の社員面談の経験より、働く女性のメンタルヘルスに詳しい。著書に『ハイスペック女子の憂鬱』(洋泉社新書)ほか。
株式会社ドクターズヘルスケア

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