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小林敦志「自動車大激変!」

ホンダ・N-BOXに軽自動車“初心者”が殺到…スズキとダイハツが脅威を感じる理由

文=小林敦志/フリー編集記者
ホンダ・N-BOXに軽自動車“初心者”が殺到…スズキとダイハツが脅威を感じる理由の画像1ホンダの「N-BOX」(「N-BOX|Honda」より)

 軽自動車業界でかねてから注目されているものに“SD戦争”がある。ブランド別の軽自動車販売台数ランキングで、暦年締めや事業年度締め、それぞれの半期締めなどで、「S=スズキ」と「D=ダイハツ工業」がブランド別販売台数トップをめぐり、まさに“仁義なき”販売競争を展開していることだ。

 2007年にそれまでしばらくナンバー1だったスズキが2位に転落し、ダイハツがトップに立つと、13年までダイハツのトップが続いたのだが、14年にスズキがトップに返り咲く。しかし、15年から17年まで再びダイハツがトップの座を守っている。しかも、首位のダイハツと2位のスズキとの販売台数差は15年以降毎年5万台以上となっており、ダイハツの圧勝が続いている。

ホンダ・N-BOXに軽自動車“初心者”が殺到…スズキとダイハツが脅威を感じる理由の画像2

 しかし、全国軽自動車協会連合会(全軽自協)の統計によると、スズキの18年1月から9月までの累計軽自動車販売台数が44万9880台に対し、ダイハツは46万2171台となっており、トップのダイハツと2位スズキの差は1万2291台にまで迫っている。さらに、18年5月、6月、8月、9月はスズキがダイハツを僅差ながらも抜き去り、ブランド別の軽自動車販売でトップとなっているのだ。ホンダ・N-BOXに軽自動車“初心者”が殺到…スズキとダイハツが脅威を感じる理由の画像3 18年1月から各単月での販売台数の差を見ると、1月は7806台、2月は3820台、3月は2729台、4月は1977台と、スズキはトップのダイハツとの差を縮めていき、ついに5月に1492台の差をつけてトップとなった。

 その勢いもあってか、18事業年度締め上半期(18年4~6月)でのブランド別販売台数では、ついにスズキがダイハツを抜いてブランド別軽自動車販売台数第1位となったのである。

新型スペーシアの登場とホンダN-BOXの脅威

 このように、スズキとダイハツが例年にないデッドヒートを展開している要因のひとつに、スズキの新型「スペーシア」の好調な販売がある。

 現行スペーシアがデビューしたのは、17年12月14日だった。このタイミングでのデビューだったので、各ディーラーでの初披露目は年明け3日から全国のスズキ系ディーラーで始まった“初売り”となった。実質1月から本格販売となったため、スズキとダイハツの販売台数差も、1月こそ7806台とけっこうな開きがあったのだが、2月になるとその差は3820台とほぼ半減、年度末決算月となる3月期には2729台にまで縮まった。新型スペーシアの登場がスズキとダイハツのブランド別販売台数差の縮小に貢献していることは、統計数字を見ても明らかといえる。

 ただし、スペーシアがライバルとして想定しているのは、ダイハツ「ムーヴ」ではない。現行ムーヴは14年12月にデビューしており、すでにモデル末期状態になっていることもあり、往時に比べて販売台数は低迷苦戦傾向にあるからだ。スペーシアがライバルとして想定しているのは、本田技研工業(ホンダ)の「N-BOX」である。それは、現行スペーシアのスタイルを見てもすぐにわかる。“スズキ版N-BOX ”と表現してもいいほど、N-BOX をかなり意識したエクステリアデザインとなっているのだ。

 通称名別(一般的に言うところの車名)では、すでに向かうところ敵なし状態のN-BOXは、単月、暦年、事業年度など、ありとあらゆる販売ランキングで圧倒的強さを見せ、トップに立っている。幸いにしてというべきか、ホンダがほかにラインナップしている軽自動車がN-BOXにのみこまれるように、販売低迷傾向にあるので、ホンダというブランド自体は2位のスズキに大差をつけられて3位となっているが、決して油断できる状況ではない。

 販売台数やシェアも気になるところだが、スズキやダイハツがN-BOXを脅威に感じる理由は、それまで軽自動車に興味がなかったり軽自動車に乗ったことがなかったりする消費者を多く惹きつけている点にある。今でも「軽自動車には興味があるが、スズキやダイハツはちょっと……」と考える消費者は少なくない。そのような消費者に対しては“ホンダの軽自動車”というフレーズは効果がある。つまり、本来はスズキやダイハツに流れてくると考えられた“軽自動車ビギナー”的なユーザーをN-BOXが率先して囲い込んでしまい、スズキやダイハツへ十分に流れ込んできていないことを脅威と感じる部分も多いのである。

 日産自動車も三菱自動車工業との合弁会社で開発した軽自動車を販売しているが、ホンダ同様に“日産の軽自動車”という点が大きく、好調な販売が続いている。

“未使用中古車”が生まれる裏側

 ただし、今日の新車販売統計の数字が必ずしも市場での一般消費者の人気のみを反映しているとはいえないのも事実だ。もちろん、小売販売でよく売れているのは大原則なのだが、販売上位車種では、ディーラーなどにある未使用状態で未届け(ナンバープレートのついていない)在庫車をディーラー名義などで届け出を行い、ナンバープレートを取得する“自社届け出”を行い、販売台数の上乗せを図るケースが常態化している。

 たとえば、スズキやダイハツは正規ディーラーと販売協力関係にある“業販店”と呼ばれる街の整備工場などでの販売(業販比率)が、正規ディーラーでの販売比率より高い。しかも、スズキとダイハツの両方の業販店を兼ねているところも多いので、両メーカーの営業担当者はそのような業販店を回り、お互いの販売状況を探りだすなど、メーカーはさまざまなルートでライバルの販売状況の把握に努めているのである。

 そして、月末が近くなると、「あとどれぐらい販売台数を増やせば、ライバルに勝てるか」などの予想を立て、それに基づいて自社届け出を行い、販売台数の上積みを図るのである。そのため、自社届け出は“販売台数の調整弁”などともいわれている。

 そして、自社届け出された車両は未使用のまま半年ほど寝かしておき、ほどほど減価償却が進んだ段階で“届け出済み未使用中古車”として中古車市場に放出されるか、自社届け出後にディーラーの試乗車や点検や整備の際の代車として、半年ほど使った後に“なんちゃって未使用中古車”として、届け出済み未使用中古車より買い得な価格設定で中古車展示場に並ぶこととなる。

ダイハツが“自社届け出”に消極的な理由

 新型スペーシアが販売好調であることを前述したが、そのスペーシアも、N-BOXがライバルということもあり、自社届け出は積極的に行われている。もちろん、N-BOXも程度の差こそあれ同様のことは行われている。

 しかし、ダイハツは少し様子が違うようだ。たとえば、「タント」はモデル末期状況ということもあり、タントを中心に積極的に自社届け出を仕掛けてきてもおかしくないのだが、自動車業界関係者は以下のように語る。

「最近は業者が大量にオーダーを入れ、届け出を行い、ナンバープレートをつけた直後に届け出抹消手続きをして海外に軽自動車が輸出されることが珍しくないのですが、トヨタの完全子会社としての立場もあるようで、それが“よろしくないこと”として、海外輸出が疑われるような大量の発注への監視が強化されているとの話も聞いています。そのようなこともあり、思うような自社届け出活動が、ムーヴも含めてダイハツの軽自動車全般で行えていないようなのです」

 海外輸出のメインは軽トラックなどの商用車となるようだが、結局のところ、国内での自社届け出でも価格の安い軽トラックは販売台数上積みのためによく利用される。そのため、市街地でも“ノンエアコン、ノンパワステ、MT”という売りにくそうな届け出済み未使用中古車の軽トラックが多数展示されることもあるわけだ。

 また、軽自動車業界には「販売ナンバー1」にこだわる事情があるのだが、それは“SD戦争”のゆくえとともに次回に詳述したい。
(文=小林敦志/フリー編集記者)

小林敦志/フリー編集記者

小林敦志/フリー編集記者

1967年北海道生まれ。新車ディーラーのセールスマンを社会人スタートとし、その後新車購入情報誌編集長などを経て2011年よりフリーとなる。

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