「これは、差別じゃないですか!」
東京地検の久木元伸・次席検事の定例記者会見終了後、海外メディアの記者数人が広報官に詰め寄っていた。11月29日の会見に集まった海外メディア記者たちの関心事は、もっぱら日産自動車のカルロス・ゴーン前会長らの事件。そのなかで、勾留の再延長についての質問がいくつか出た。
回答拒否を繰り返した東京地検
日本の法律では、捜査機関は逮捕後48時間以内に裁判官に勾留の請求をしなければならない。勾留の期間は最大10日間。ただし、「やむを得ない事由があると認めるとき」には、検察官の請求によって裁判官が10日間以内に限って延長することができる。新たな被疑事実で再逮捕し、勾留の手続を繰り返し、身柄拘束下での取り調べがさらに長期化することも珍しくない。
ゴーン氏の場合、最初の勾留期限は11月30日。検察の勾留延長請求は確実と見られていたが、それを確認しようとする記者の質問に、久木元次席は「お答えを差し控える」とにべもなかった。
それ以外にも、捜査に関する質問には、久木元次席はほとんど答えなかった。
容疑に対する認否については、「供述内容は証拠そのもの」とし、「裁判の開廷前に明らかにすることは差し控えたい」と述べた。確かに刑事訴訟法の規定では「訴訟に関する書類は、公判の開廷前には、これを公にしてはならない」となっているが、記者は被疑者の調書を見せてくれと言ったわけではない。しかも、国内のマスメディアでは、ゴーン氏らの弁明や主張が(その正確性はともかく)たくさん報じられている。
逮捕時の状況についても、「検察の活動内容に関わる」として「今後の捜査にも影響するので差し控える」と回答拒否。だが、これについても、日本のメディアではすでに報じられている。
ゴーン氏らの取り調べが1日最大どれくらいの時間行われているのかも「検察の活動内容に関わるので差し控える」。司法取引した日産関係者の取り調べで録音録画は行われているのかを聞いても、「わからない」。「後で確認して教えてほしい」と頼んだら、広報官を通じてこういう返答があった。
「具体的にも抽象的にも回答を差し控える」
木で鼻をくくったような対応とは、こういうことを言うのだろう。
捜査に関する事実についてまともな回答があったのは、取り調べは英語の通訳を介して行われていること、逮捕された2人には取り調べ全過程の録音録画が行われていること、司法取引を行った日産関係者の取り調べに弁護士は立ち会っていないこと、くらいだった(日本型司法取引は、被疑者・被告人とその弁護人が検察官と協議して取り引きを合意する制度だが、弁護人が立ち会えるのは合意が成立するまでであり、その後の取り調べは立ち会いは認めない、との説明だった)。
そして会見終了後、海外メディアの記者たちは、勾留延長の請求をした場合、あるいはそれが認められた時点でもよいので、その事実を教えてほしい、と広報官に依頼していた。それを断られたので、記者たちは冒頭に書いたように怒っていたのだ。
「請求をするかどうかを事前に教えてほしいと言っているんじゃない。請求をした、もしくは決定が出た、その後で教えてほしいと言っているのに、そういう客観的な事実を、なぜ記者クラブに所属する日本のメディアにしか出さないのか」
のれんに腕押し。記者たちは、広報官から前向きな回答をもらえないまま引き上げざるをえなかった。
釈然としない“特ダネ記事”、疑惑は真偽不明
念のために言っておくと、検察の記者会見では私たちフリーランスも海外メディアの記者も自由に質問ができる。その点は、極めて閉鎖的な警察や裁判所よりずっとましではある。しかし、質問はできても、すでに報じられた事実さえ答えないのでは、記者会見を開く意味は半減以下である。
この会見から私が帰宅してまもなく、ネット上でこんな報道を見た。
「日産自動車の前会長カルロス・ゴーン容疑者(64)の勾留期限を30日に控え、東京地検が東京地裁に延長を請求する方針を固めたことが29日、分かった。」
共同通信の記事だった。
記者会見で回答を拒否した情報が、数時間後には大メディアを通して報じられているのだ。