老化とは、体のたんぱく質の量が減少してゆく変化である。そのためシニア向け通販メディアをはじめ、たんぱく質を摂ることばかりがどうしても強調されがちだ。
しかし脂質栄養を摂取することも、とても重要なことを忘れてはならない。この重要性はすべての世代に共通している。一般に、メタボリックシンドローム対策では脂肪摂取は目の敵にされるが、老化対策では心強い援軍になる栄養素である。今回は“老化を遅らせる食生活指針”の項目4「油脂類が不足しないように注意する」についてお話ししようと思う。
脂質栄養と健康問題の関係を扱った科学知見は、ミドルエイジの集団を対象に追跡調査して良いか悪いかを判定している論文がとても多い。脂質の種類を飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸に分けても分析している。これらの脂肪酸の名前は読者の方々も聞き覚えがあるのではないだろうか。飽和脂肪酸は豚肉や牛肉の脂身、ラード、バターに多い。一価不飽和脂肪酸はオリーブ油、多価不飽和脂肪酸はEPAやDHAなどで魚油に多い。
もっとも、われわれが口にするほとんどの食品食材には、多様な脂質が含まれている。したがって脂肪酸も混在している。脂質栄養と健康に関する問題は、まず摂取する総量で総合判断するのが妥当であろう。
栄養摂取と死亡リスクの関係について研究した、よく引用される有名な論文がある(Dehghan M, et al. Associations of fats and carbohydrate intake with cardiovascular disease and mortality in 18 countries from five continents(PURE): a prospective cohort study. Lancet 2017 Nov 4;390(10107):2050-2062)。経済水準や食習慣が異なる18の国・地域が参加している。総死亡リスクに多大な影響を与える社会人口学的な要因が調整された成果のため、説得力がある。35~70 歳の約13万5,000人がエントリーして5~9年間追跡されている。
結果は、脂肪エネルギー比(総エネルギー摂取量のうち脂質から摂るエネルギーの割合)が高いほど総死亡リスクが低い。この関係は 飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸の種類別にみても一貫して認められるというものであった。このミドルエイジを主とした大集団の国際的研究では、脂質栄養を悪者扱いする根拠は見当たらない。このように本来、脂質栄養は極めて重要な栄養素であることがわかる。