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片田珠美「精神科女医のたわごと」

なぜ荒川区の子煩悩な和菓子店店主は娘を殺したのか?親子間の「強い愛着」が孕む危険性

文=片田珠美/精神科医
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 仏教と精神分析は、成り立ちも考え方も異なる。にもかかわらず、愛と憎しみという相反する感情を同一人物に対して抱きうることを、それぞれが別の言葉で説明したのは、こうした精神状態が人間にとって普遍的なものだからだろう。

「愛憎一如」あるいは「アンビヴァレンス」が最も極端な形で表れるのが親殺しである。アメリカの精神科医、ウェルサムは、息子による母殺しの事例を研究し、「母親への過度の愛着が母親に対する激しい敵意へと直接変形される」結果、母親を殺すのだと説明した。

 同様のことは、子殺しにおいても起こりうる。今回の事件でも、父親の娘への「過度の愛着」が「激しい敵意」へと変形したからこそ、娘を殺した後、自分も首をつり、結果的に父子心中のかたちになったのではないか。

 このような悲劇が起こった背景に、父親が精神的に病んでいたことがあるのかもしれない。いぶきさんの母親が「最近になって夫の様子がおかしくなった。暗い様子だ」と話しているようなので、父親がうつ病もしくは抑うつ状態で、何でも悲観的にしか見られず、人生に絶望していた可能性も考えられる。実に痛ましい事件である。

(文=片田珠美/精神科医)

参考文献

片田珠美『オレステス・コンプレックス―青年の心の闇へ』NHK出版 2001年

片田珠美/精神科医

片田珠美/精神科医

広島県生まれ。精神科医。大阪大学医学部卒業。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。人間・環境学博士(京都大学)。フランス政府給費留学生としてパリ第8大学精神分析学部でラカン派の精神分析を学ぶ。DEA(専門研究課程修了証書)取得。パリ第8大学博士課程中退。京都大学非常勤講師(2003年度~2016年度)。精神科医として臨床に携わり、臨床経験にもとづいて、犯罪心理や心の病の構造を分析。社会問題にも目を向け、社会の根底に潜む構造的な問題を精神分析学的視点から分析。

Twitter:@tamamineko

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