
老後資金を年金だけでは賄いきれず、2000万円の貯蓄が必要になる――6月に金融庁の審議会が出した報告書が大きな話題を呼んだことは、記憶に新しい。富裕層以外の人々にとって、老後資金は共通の悩みだろう。100年安心と謳われた年金に頼ることができないという事実を突きつけられた庶民が、この報告書に絶望したり怒りを露にしたりすることは自然な話でもある。
年金だけで豊かな老後を送れると考えている人は少ない。今回の報告書が大きく取り上げられた原因は、当初、麻生太郎金融相が年金行政の失敗を棚上げしたうえに、国民に責任があるかのように言い放った点にある。今後、少子高齢化はさらに進み、現役世代が将来受け取る年金はさらに減る。加えて、非正規雇用が拡大しているので賃金の上昇も望めない。
老後資金の不足と同様に悩ましいのは、介護従事者の不足問題だ。今般、すでに介護士不足は業界では顕在化している。介護福祉士は国家資格で、一般的に勤続3年以上の経験がないと取得できない。資格がなくても、ヘルパーとして介護施設で働くことはできるが、とても心身を疲弊させる労働であり、未経験者が簡単にできる仕事ではない。まして、言葉も文化も価値観も異なる外国人労働者で介護士不足を賄おうとする政府の場当たり的な政策には、疑問の声も多い。現場からは「余計に混乱が大きくなり、むしろ離職者が増えてしまい、かえって介護士不足が加速するという事態になる」という声も聞かれる。
業界関係者は、介護という仕事への無理解について、こう指摘する。
「寝たきりの老人でも、食事と排泄の介助が日常的に必要です。入浴介助は週1回でも、日常的な介助は介護士一人ではとてもできず、3人ぐらいで担当します。そのほか、寝返りやずれた布団を掛け直すこともできない高齢者もいます。そうした就寝中のサポートをする人手も必要です。各々の家を夜間に回って、就寝中の体勢を変える介護を専門にやっているヘルパーもいます」
介護には“名もなき介護”も存在する。
「そうした多々ある作業が理解されづらいため、結局は『高齢者の世話をしている“だけ”で、金をもらっている』という不当な扱い、見方をされるのだと思います」(同)
“待機老人”問題
急速に進む高齢化、そして長寿命化によって介護職員不足はさらに加速すると予想されている。そのため、「老後資金が2000万円あっても、介護を受けられない“介護難民”や老人ホームなどに入所できない“待機老人”が問題になっている」と頭を抱えるのは、ある自治体で高齢者のケアを担当する職員だ。