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江川紹子の「事件ウオッチ」第136回

【『表現の不自由展』補助金不交付】前例のない決定はまるで懲罰? 政府は不交付を再考せよ

文=江川紹子/ジャーナリスト

 

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「表現の不自由展・その後」に展示されていた少女像(写真:YONHAP NEWS/アフロ)

 愛知県で開催中の国際芸術祭『あいちトリエンナーレ2019』を巡っての波乱が続いている。犯罪予告の脅迫を含む激しい“電凸”によって中止になった企画展「表現の不自由展・その後」は、検証委員会の中間報告を受けて、大村愛知県知事が「再開を目指す」と語った。その翌朝、荻生田光一・文部科学大臣は、すでに採択されていた同芸術祭に対する補助金約7800万円の全額を交付しない、と発表した。

「不自由展」中止までに何があったか

 荻生田文科相は、不交付の理由を「申請のあった内容通りの展示会が実現できていない」と述べ、「中身については文化庁はまったく関与しておらず、検閲にはあたらない」としたが、このようなかたちで、一度決まった補助金が取り消される例は聞いたことがない。再開に向けての動きの出鼻をくじくようなタイミングもあり、美術関係者のみならず、表現の自由に関心を持つ人たちは「政府はとうとう一線を踏み越えた」「このままでは表現の萎縮を招く」との危機感をもって受け止め、国に再考を求める署名活動なども始まった。

 まず、事実を整理しておく。

 3月5日に公表された今年度の「文化資源活用推進事業」の募集案内によれば、同事業の目的は次の通り。

<「日本博」の開催を契機として、各地域が誇る様々な文化観光資源を体系的に創成・展開するとともに、国内外への戦略的広報を推進し、文化による「国家ブランディング」の強化、「観光インバウンド」の飛躍的・持続的拡充を図ります>

 単に芸術文化への支援というだけでなく、観光資源となるイベントを補助していく、というものだ。申請できるのは地方自治体のみ。ちなみに「日本博」とは、東京オリンピック・パラリンピックに関連して、文化・芸術の振興、発信するプロジェクトを言う。

 専門家による審査を経て4月25日、26件の事業(採択額11億3200万円)の採択が決まった。補助金の採択額が7000万円を超える事業は、「『あいちトリエンナーレ』における国際現代美術展開催事業」のほか、札幌市の「パシフィック・ミュージック・フェスティバル(PMF)札幌開催事業」、富山県の「利賀から世界へ・世界から利賀へ~世界的舞台芸術拠点形成事業」、石川県の「いしかわ・金沢 風と緑の楽都音楽祭開催事業」、大阪府の「『大阪文化芸術フェス』事業」、岡山市の「『岡山芸術交流』を核とした文化資源活用推進事業」がある。

 採択が決まると改めて補助金の申請を行い、さらに事業が終了した後に報告書を提出して、最終的な交付額が決まり、交付が行われる。つまり、実際の交付は、事業が終わってからの「後払い」だ。愛知県は、5月30日に補助金交付申請を行っている。

 その後、「不自由展」中止までの間に、次のような出来事があった。

7月31日

 新聞の朝刊が「不自由展」について報じる。関係者やメディアを招いての内覧会で同芸術祭での詳細な展示内容が公表された。出席予定だった文化庁幹部は欠席した。

8月1日

 あいちトリエンナーレ開幕。松井一郎大阪市長が、「不自由展」について「にわかに信じがたい!河村市長に確かめてみよう。」とツイート。ツイッター上では、自民党議員の和田政宗参院議員が「あいちトリエンナーレは文化庁助成事業。しっかりと情報確認を行い、適切な対応をとる」と書き込んだ。

8月2日

 菅義偉官房長官が閣議後の記者会見で「補助金交付の決定にあたっては、事実関係を確認、精査して適切に対応したい」と発言。柴山昌彦文科相(当時)も、「展覧会についての具体的な内容が判明をし、実施計画書の企画内容や本事業の目的等と照らし合わせて、確認すべき点が見受けられることから、補助金交付の決定にあたっては、そうした事実関係を確認した上で、適切に対応していきたい」と、同趣旨の発言をしている。

 正午前に河村たかし・名古屋市長が「不自由展」を視察。その場で多くの報道陣を前に「どう考えても日本人の、国民の心を踏みにじるもの」などと語った。

 また、一部の自民党議員らが「不自由展」について「政治的プロパガンダ」「公金を投じるべきではない」などとする声明を発したり、首相官邸で西村康稔官房副長官と面会したりした。西村氏は「自民党愛知県議団を中心に対応を始めている」と応じた、と報じられている。

 この日に「ガソリン携行缶を持ってお邪魔する」と、京都アニメーションへの放火事件を彷彿とさせる脅迫FAXがあり、あいちトリエンナーレ実行委員会の委員長でもある大村知事が津田大介・芸術監督に対して、中止を提案した。

8月3日

 大村知事が、安全面の配慮からこの日限りで「不自由展」を中止すると決定し、発表した。

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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