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ポスト五輪の東京~2020年以降も勝つまち、負けるまち~ポスト五輪を待ち受ける23区の勝ち目、弱り目

東京一極集中、その知られざる理由…人々が東京から出ていかなくなったことで起きる事態

文=池田利道/東京23区研究所所長

 前者の背景には、1970年に住宅金融公庫(現:住宅金融支援機構)が分譲マンションへの融資を始めたことを契機として、マンション建設が一気に進んだことが考えられる。これにより、地価が高い23区でも持ち家を取得できる可能性が広がり、郊外部への転出者が減った。

 後者は明らかにバブルの影響だ。中古住宅の転売市場が未成熟な我が国で、唯一バブル期だけは、23区内の住宅(主としてマンション)を売却すれば、郊外部によりリッチな住宅を手に入れることができた。

「実感なき好景気」でも東京に人が集まる理由

 対地方との関係(図表1-3)は、まさに我が国の現代経済史を見る感がある。高度経済成長期も後半になると、環境問題や過密の弊害、地価の高騰などの影響で、地方から23区への転入超過は漸減していたが、それでも高い水準を維持していた。これが急減するのが1973年。オイルショックが勃発し、我が国の高度経済成長期が終わりを告げた年だ。

 いわゆる安定成長期といわれた1970年代後半を経て、1980年代に入ると、レーガノミクスによるドル高、円安に支えられた好景気が訪れる。このとき、23区への転入超過数は再び増加傾向へと転じる。しかし、1985年の「プラザ合意」後、円高不況に陥ると再び減少傾向に転換。転入超過数の減少はバブル期も続き、バブルが完全に崩壊する1993~94年にはボトムを記録する。

 その後、1990年代後半のITバブル、2000年代初頭のITバブル崩壊、2000年代中盤のいざなみ景気、2008~11年のリーマン・ショックと東日本大震災、そしてアベノミクス。こうして見ていくと、日本列島全体がリゾートブームに沸き返ったバブル期を例外として、好景気時には23区への転入者が増え、不況時には減るという循環が繰り返されてきたことがわかる。景気の波が人々の心の波に反映し、東京への集中を進めたり抑えたりしてきたのだ。

 しかし、今世紀に入って以降、こんな単純な図式では捉えられない動きが生じていることを見逃すことができない。いざなみ景気もアベノミクスも「実感なき好景気」といわれる。にもかかわらず、人々を東京に駆り立てているのは、かつてのようなポジティブ思考ではなく、格差社会が拡大していく中で「地方での生活に未来が見通せない」というネガティブな思考の結末ではないだろうか。

 不安に背中を押された人々が、あたかも誘蛾灯に集うように東京に引き寄せられている姿だ。この事態を打開できるのが、リーマン・ショックや東日本大震災級のインパクトしかあり得ないのだとしたら、事はきわめて深刻である。

池田利道/東京23区研究所所長

池田利道/東京23区研究所所長

東京大学都市工学科大学院修士修了。(財)東京都政調査会で東京の都市計画に携わった後、㈱マイカル総合研究所主席研究員として商業主導型まちづくりの企画・事業化に従事。その後、まちづくりコンサルタント会社の主宰を経て現職。
一般社団法人 東京23区研究所

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