
正しいと信じて糖質制限ダイエットに取り組んでいる方々に、無理矢理やめろという気はありません。自分の責任でやっているのだから、最後までその責任をまっとうすればいいと思っております。何を信じるかということは、自分勝手にすればいいことです。他人に迷惑をかけない限りは。
ただ、本連載前回記事で書いたように、糖質制限ダイエットにはネガティブな側面もある、ということは承知しておいていただきたいと思うと同時に、あえて老婆心ながら申し上げておきたいことがあります。これは、糖質制限ダイエットをやる、やらないにかかわらず、うっかりすると多くの方々が見落としてしまい、健康であることを願いながら、不健康への道をまっしぐらに進むことにもなりかねないので、書いておこうと思いました。
ひとつは、中鎖脂肪酸の摂取に関してです。中鎖脂肪酸はMCTオイルとも呼ばれ、エネルギーに変換しやすいという理由で、糖質制限ダイエットに取り組んでいる方が積極的に摂取されています。糖質制限ダイエットは、炭水化物の摂取を少なくして糖質(ブドウ糖)が血液中に入らないことを基本としているので、どうしてもエネルギー不足になりがちです。そこで、それを補うために糖質ではなく、エネルギーになりやすいといわれている中鎖脂肪酸を摂る、という考え方です。
そもそも、なぜそんな面倒な、回りくどい食べ方をしなければならないのか、筆者にはわかりかねますが、そのような食べ方が推奨されているようです。
オイルのテレビCMに起用されているタレントやアスリートは、あくまでもイメージ戦略として使われているのですから、見る側はその点をきちんと理解しなくてはいけません。CMを見て、糖質制限ダイエットに取り組んでいるわけではないが、なんとなく良さそうだから摂ってみようと考える方もいるのではないでしょうか。中鎖脂肪酸を摂ることに反対はしませんが、中鎖脂肪酸を摂っているからほかのオイルは摂らなくても大丈夫ということにはならないので、その点はご理解ください。
これは、この連載の中でも繰り返し述べてきましたが、体内に摂取されたオイルの役割は多岐にわたっています。まずは細胞膜を構成する成分になること。そしてエイコサノイドと呼ばれる体内調整物質の原材料となることも、重要な役割です。しかし、中鎖脂肪酸はこの2つの役割を果たすことはできません。よって、中鎖脂肪酸をたっぷり摂っているから、またほかのオイルは中鎖脂肪酸よりエネルギーになりにくいから、という理由で、ほかのオイルを摂らないというのは誤った選択です。
細胞膜、およびエイコサノイドの原材料となるのは、オメガ3脂肪酸とオメガ6脂肪酸です。どんな食事をしようとその人の勝手ですが、健康でいたいと思うなら、この2つの脂肪酸は必ず摂取しなければなりません。これらは私たちの体内ではつくり出すことができないので“必須脂肪酸”と呼ばれ、欠落すると死に至ります。