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血液クレンジングは「即刻禁止にすべき」…透析専門医が警鐘、有名人を利用し国民に拡散

文=ヘルスプレス編集部
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「Getty Images」より

「血液クレンジング」という医療行為の是非をめぐって、さまざまな見解が飛び交った。

 ブロガーのはあちゅう、歌舞伎役者の市川海老蔵、教育評論家の尾木直樹氏、タレントの高橋みなみなどが、自身のインスタグラムやブログなどで血液クレンジングを受けてきたと報告し、一時期関心が高まった。その後しばらく沈静化していたが、10月から再び医療関係者らから「トンデモ医療である」といった批判の声が沸き起こり、話題になった。

 10月21日にBuzzFeedが「『トンデモ医療であると、断言します』血液クレンジング、医学的に徹底検証してみた」と題する記事を出した。この記事ではNIH(米国国立衛生研究所)で免疫学やウイルス学を専門とする峰宗太郎医師が、関係する論文を科学的に検証したところ「オゾンの医療利用は、医学的にははっきりとした有用性は極めて限定的であり、かつ弱いエビデンス(証拠)しかなく、ほぼ無効であろうと言えます」と結論づけている。この記事の掲載以後、医療者や研究者の発言も増えている。

あまりにも適用範囲が広い、夢のような治療法

 血液クレンジングは、患者の血液を採血して「医療用オゾン」を混ぜ、再び自分の体に戻すという治療法で、実施しているクリニックのHPでは、次のような疾患を適応として挙げている。

「がん、悪性リンパ腫、自己免疫疾患(慢性関節リウマチ、多発性硬化症、クローン病、アトピー性皮膚炎、エリテマトーデス)、線維筋痛症、ウイルス性疾患(B型・C型肝炎、HIV、パピローマウイルス、帯状疱疹)、慢性腎不全、慢性疲労症候群、脳神経退行性疾患(アルツハイマー病、パーキンソン病、痴呆)、呼吸器疾患(肺気腫、COPD)、真菌感染症、眼科疾患(白内障、緑内障、加齢性黄斑変性症)、動脈閉塞性疾患(心筋梗塞、脳梗塞)、下肢静脈瘤、糖尿病(糖尿病性末梢神経障害、糖尿病性壊疽)」

 適応範囲が広すぎ、“万病に効きます”と謳っているようにさえみえる。

透析専門医は「この治療法は即刻禁止にすべき」

 自らの血液を体内から抜き、手を加えて再び体内に戻すというこの治療法に対してそれほど抵抗が生じない理由のひとつは、非常に類似し、しかも保険診療として確立された治療があることだ。

 もっともよく知られているのは、慢性腎不全患者に対する血液透析療法だろう。一般的に血液から不要、あるいは有毒な物質を除去する治療方法は「血液浄化療法」といわれ、血液透析以外にも血漿交換 、血漿吸着など、さまざまな方法がある。

 手法だけ聞くと、血液クレンジングもさほど異様な治療法だとは感じられないかもしれない。しかし、日本腎臓学会および日本透析学会専門医、指導医の横山隆医師は、次のように語る。

「血液クレンジングに関しては、『まやかし療法』『野放図療法』『私たちを欺く治療』だと断言できます」

 その根拠として、以下の5つを指摘する。

(1)本療法に関する「有効性」を証明できる、エビデンスがない。日本国内はもとより、欧米でも証明されていない。医学雑誌でも、特にオゾンを使用した患者と偽薬(食塩水など)を投与した患者で、有意差をもってクレンジング療法の効果が認められたとの報告がない。

(2)HIV、インフルエンザウイルスの除去効果は、いかなる方法で証明するのか、また証明したのか、まったく不明。

(3)悪性腫瘍、白血病の免疫力を高めることによる治療効果についても証拠がない。

(4)心筋梗塞、狭心症についても、冠血流を改善する証拠がない。

(5)老化抑制に関しても、まったく証拠がない。

「血液クレンジング療法を我が国で、『自由診療』として行っているのは、公的病院ではなく、怪しいクリニックが<金儲け>を目的として、野放図に治療行為をしているのです。 許せないのは、医学的知識のない有名人に協力してもらい、この治療を国民に拡散させていることです」(同)

 さらに、透析専門医の立場から「血液クレンジングによって腎不全が改善でき、透析を不要とすることができれば、ノーベル賞級の治療法なのですが、残念ながらそれは現在のところ不可能でしょう。この治療法は即刻禁止すべきです。規制は必要です」と主張する。

関係学会との連携で問題は解決するのか

 11月6日の衆議院厚生労働委員会で、血液クレンジングが取り上げられた。厚生労働省は、その効果やリスクについて現時点では確認できていないとした上で、「関係学会と連携しながら情報収集を進めたい」との考えを示した。

 関係学会が、どの学会のことを示すかは不明だが、主にこの治療法を推奨する日本酸化療法医学会では、血液クレンジング療法について非常に詳しくその機序や論文等を掲載し、そのエビデンスがあると主張している。この学会の説明だけを読んで、一般人がこの療法の是非を判断することは不可能だろう。しかも、血液クレンジングを実施する医療機関の検索ページまであり、全国165施設(12月2日現在)あると紹介されている。つまり、少数の特殊で実験的なクリニックのみで実施されている治療方法ではないのだ。

 医師には裁量権というものがあり、提供できる医療行為の制限はない。だが、これだけの批判がある治療方法に関しては、そのエビデンスが妥当なものなのかきっちりとした説明責任を果たすべきだろう。そして医療界の多くが認め、可能であれば保険診療として提供できるように努力されるべきだろう。ましてや、血液クレンジングのように多くの医療機関で実施されている治療法であれば、なおさらのこと学会などの責任は大きい。

患者のために客観的な評価指針やガイドラインの整備が必要

 あらゆる代替医療の有効性を徹底的に検証した大書『代替医療のトリック』(サイモン・シン&エツァート・エルンスト)でも、酸素療法に言及している。

「代替医療の酸素療法はどんなタイプのものも、信頼できる科学的根拠はないと言ってよい。したがって、潜在的な危険性のほうが、主張されている効果よりも大きいことは明らかだろう。結論は明白だ。酸素は、通常医療ではさまざまに利用されているが、代替医療における役割は、生物学的には考えにくい説にもとづいている。代替医療の酸素療法は有効性が示されていないばかりか、有害にもなりうる。この療法は受けないようにしよう」

 代替療法、民間療法、自由診療には同様にエビデンスのないもの、曖昧なものが多い。したがって、当然のことながら積極的に推奨はされるべきではない。しかし、標準医療で効果がない患者や、エビデンスのない、あるいは低い治療方法でも「この治療方法はいいと思う」「受けてみたい」「自分には効果があるかもしれない」「できる治療はなんでも試してみたい」などと考えることまでは否定できない。ケースによっては、追い詰められている切実な場合も少なくないはずだ。

 すべての保険外診療が否定されるべきではないだろうし、そのなかにも将来の標準治療になり得るものがあるかもしれない。そうであれば、なんらかの客観的な評価情報や基準が求められるべきではないのか。そろそろこの分野にもEBM(根拠に基づく医療)の網がけを本格的に始動させる時期に来ているのではないか。
(文=ヘルスプレス編集部)

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