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総務省が係争委の勧告無視、泉佐野市をふるさと納税から除外…「地方自治」の精神逸脱

文=小川裕夫/フリーランスライター
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泉佐野市 HP」より

 大阪府泉佐野市は地元に目立った特産品がないことを理由に、ふるさと納税の返礼品としてAmazonギフト券を配布した。それが人気を呼び、泉佐野市は全国各地から約300億円のふるさと納税を集めた。

 こうした泉佐野市の振る舞いを重く見た総務省は、ふるさと納税の趣旨に反するとして泉佐野市をたびたび批判。そして、ついに制度改正に踏み切った。今年度から、総務省は指定団体制度を導入。地方自治体は総務省から指定団体として認可されなければ、ふるさと納税を行った人は税額控除が適用されなくなった。

 これまで建前では国と地方自治体は対等の関係にあった。

「総務省が指定団体として認可するという方式は、地方自治の自主・自立の精神に反するという意識が強くあり、総省内でも一部の自治体をふるさと納税制度から除外するという半強制的な方法を好ましく思っている職員は少なかった」(同省職員)

 新制度導入で国と地方自治体が対等であるという前提は大きく崩れた。総務省が気に食わない自治体を容易に指定団体から外すことができる恣意性を帯びた制度設計になったことは、「国が上。地方が下」という主従関係を露骨にしてしまったからだ。

 そして、今年6月に総務省はふるさと納税の指定団体を発表。事前の予想通り、泉佐野市は指定団体から除外された。これに敢然と異を唱えたのが、ほかならぬ泉佐野市だった。同市は第三者機関「国地方係争処理委員会」に不服を申し立てる。同委員会は、「指定団体制が始まった後の実績を見て判断するべき。制度開始前の泉佐野市のやり方で指定団体から除外するという判断は、指定団体から除外する根拠として不十分」と勧告。総務省の完敗に近い内容だった。

 しかし、地方自治体を所管する総務省にとって、市町村に係争で負けるわけにはいかない。中央官庁としてのプライドもある。総務省は同委員会の勧告を受け入れず泉佐野市除外の方針を変えないため、泉佐野市は大阪高裁へと提訴。舞台は司法の場へと移った。

 両者の係争について、ある地方自治体の首長は「ふるさと納税は、あくまでも地方振興を目的にしている。泉佐野市のやり方は間違っていると思う」としながらも、総務省の頭ごなしのやり方にも違和感を抱く。

「国と地方は対等」の概念を放棄

 2000年に地方分権一括法が施行されて以降、前述したように建前上は「国と地方自治体は対等」という関係になっていた。しかも、その概念は総務省が旗振り役を務めた。それだけに、総務省が率先して国と地方の関係を壊すことにつながる今回の勧告拒否に対し、同省内からも非難の声があがる。前出と別の総務省職員はこう話す。

「“国と地方は対等”という概念は、総務省が発足する前、自治省の頃から取り組まれてきました。20年以上の歳月をかけて進めてきた地方分権の概念を、推進する立場の総務省が否定することになるわけですから、これは総務省の自己否定でもあります。かといって、ふるさと納税の趣旨から逸脱する泉佐野市を放置するわけにもいかず、本当に頭の痛い問題です」

 総務省vs.泉佐野市のふるさと納税戦争は、泥仕合の様相を呈している。中央官庁の威信をかけた総務省は裁判で負けられない。しかし、泉佐野市に勝ったところで、「国と地方は対等の関係」と言い続けてきた総務省の理想論は崩壊する。いずれにしても、総務省は無傷のままではいられない。事態は円満に収拾するだろうか?

(文=小川裕夫/フリーランスライター)

小川裕夫/フリーライター

小川裕夫/フリーライター

行政誌編集者を経てフリーランスに。都市計画や鉄道などを専門分野として取材執筆。著書に『渋沢栄一と鉄道』(天夢人)、『私鉄特急の謎』(イースト新書Q)、『封印された東京の謎』(彩図社)、『東京王』(ぶんか社)など。

Twitter:@ogawahiro

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