乗合バス事業が苦境に立たされている。利用者減少に歯止めがかからない上、運転手不足が運営会社の経営悪化に拍車をかけているためだ。大都市圏を除けば、公共交通は全国的に利用者の減少傾向が続いている。要因は少子高齢化とマイカーの普及によるものだ。なかでも衰退が著しいのが乗合バス。大都市圏と地方では大きな差があり、特に地方では乗合バス事業は継続が難しい地域が多く見られる。
1965年からの「いざなぎ景気」は、マイカーブームをもたらした。この時期から公共交通では利用者の減少が始まる。地方では利用者の減少から鉄道の廃線が相次いだ。そして現在は乗合バス、特に地方における路線バスが廃線の危機に瀕している。
国土交通省の自動車輸送統計によると、乗合バスの利用者は1968年の101億4400万人をピークに、2000年には48億300万人と半数以下に減少し、15年には42億7000万人にまで落ち込んでいる。鉄道系バス会社の幹部は、「マイカーの普及によるところも大きいが、少子高齢化や地域の過疎化の影響が非常に大きい。特に中山間部では路線バスの運営を継続できないところが出ている」と指摘している。
高齢者は日常的に路線バスを利用するケースは少ない。学生や勤め人のように毎日出かける必要がないためだ。路線バスの運行地域で高齢化が進めば、路線バスの需要が減少する。過疎化が進めば、需要の減少に拍車がかかることになる。路線バスの需要減少は、バス事業の運営を悪化させ、赤字路線の減便や廃線につながる。減便になれば不便さも手伝い、より路線バスを利用しなくなる。こうした“負のスパイラル”に陥り、路線バスは衰退している。
加えて、人手不足の影響も大きい。特に運転手不足は深刻で、減便の原因の一つとなっている。たとえば利用率の高い路線の増便や、新規路線の開設などサービスの拡充を行おうとしても運転手不足が原因で実施できないケースもある。さらに最も問題なのは、長時間労働による事故発生のリスクが高まることだ。
政府は路線バス事業の赤字解消に向け、2000年に貸切バス事業や高速バス事業の規制緩和を実施した。路線バス事業者は規制緩和を受けて、貸切バス事業や高速バス事業へ参入を進めたが、それでも黒字の路線バス事業者は約3割にとどまっている。
運転免許証返納の促進の阻害要因
路線バスの弱体化は、「需要の減少による減便が、さらなる需要の減少を招く」という負のスパイラル以外にも、別の負のスパイラルを惹起する可能性があり、これが今後大きな問題となるかもしれない。
それは、近年大きな社会問題となっている「高齢ドライバーによる交通事故」問題だ。防止策としては運転免許証の返納がキーとなるが、返納を促進するためにはマイカーに代わる交通手段の確保が重要だ。代替の交通手段として最も有力なのは「乗合バス」だが、その乗合バスが衰退すれば、運転免許証返納の促進の阻害要因となる可能性がある。
大都市のように公共交通手段が多いところは路線バスの必要性は低いが、公共交通手段の発達していない地方では、マイカーを除けば、最も身近な公共交通手段は乗合バスだ。つまり、公共交通手段が少なくマイカー需要が大きい地方は、高齢者の運転免許証返納が進みづらいにもかかわらず、地方でマイカーの代替手段となる乗合バスが衰退していることが、免許返納が進まない要因をつくり出すという負のスパイラルを発生させてしまう。
地方での乗合バスの弱体化をカバーするため、地方自治体ではコミュニティバスの導入が進んでいる。国土交通省によると、全国で約6割の地方自治体がコミュニティバスを運行している。このコミュニティバス利用者の15%程度が運転免許証を返納した高齢者だという統計も出ている。だが、コミュニティバスの運行は地方自治体の財政に悪影響を与えることにもなり、すべてを賄うのは困難だ。
高齢ドライバーによる交通事故防止を促進するためにも、今、公共交通機関としての乗合バスの活性化策を早急に検討する必要がある。
(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)