「東京オリンピック・パラリンピック競技大会の妨害を企図した不法事案の発生が懸念される」
「自らの主義・主張をアピールする好機ととらえて、来日する特定国の要人、選手団、観光客を糾弾したり、外国人排斥を主張したりする活動などを行うおそれもある」
これは公安調査庁が12月20日に公表した「内外情勢の回顧と展望(令和2年1月)」の特集「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の安全開催に向けて」の中の一文だ。特集では東京オリンピックでのテロの危険性を取り上げ、同庁のテロの未然防止に対する取り組みを紹介している。
2018年6月26日付当サイト記事『息吹き返す「公安調査庁」…勢力増強で活発化の狙い』で、同庁の活動が活発化していることを取り上げた。その理由について、当時、天皇陛下の退位、皇太子殿下の即位、ラグビーワールドカップの日本開催と重要イベントを控え、さらに東京オリンピックの開催を控えていることをあげた。
今回の特集では、1972年9月のドイツ・ミュンヘンのオリンピック選手村イスラエル選手団宿舎での襲撃・人質テロ事件、1996年7月の米国・アトランタの100周年オリンピック公園での爆弾テロ事件、2013年4月の米国・ボストンマラソン爆弾テロ事件などをあげ、大規模な国際スポーツイベントは、「イスラム国」(ISIL)などのイスラム過激組織にテロの標的として例示されており、「テロリストにとって世界中の注目を集める格好の機会」としている。
その上で、2019年7月に「オリンピックは、社会の様々な矛盾を隠蔽する装置」「日常に対する災害」などと主張する勢力がブラジル、韓国、フランス、米国など過去のオリンピック開催地および開催予定地の反オリンピック団体関係者を招聘して「東京放射能オリンピックおことわり」などと訴える集会・デモを実施したことを取り上げ、こうした活動には、国内過激派関係者も参加しており、大会開催が近づくにつれ海外勢力と共に反対運動を活発化させていくものとみられるとしている。
また、国内過激派の動向については、中核派が機関紙「前進」で「2020年東京オリンピック粉砕をかちとろう」と呼びかけ、革労協解放派主流派が機関紙「解放」で「2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けた戒厳令的政治弾圧の強化を粉砕しよう」と主張していることから、妨害を企図した不法事案の発生が懸念されると警戒を呼び掛けている。
さらに、右翼団体および右派系グループが、外交・安全保障のほか、領土や歴史認識などの諸問題に関する自らの主義・主張をアピールする好機ととらえて、来日する特定国の要人、選手団、観光客を糾弾したり、外国人排斥を主張したりする活動などを行うおそれもあると指摘している。
その上で、同庁では2013年9月18日に「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会関連特別調査本部」を設置し、全庁を挙げての情報収集・分析態勢の強化を図りつつ、同庁の最大の強みであるヒューミント(人的情報収集)を通じて、テロの未然防止や各種不法事案等の早期把握に資する情報をはじめ、東京大会の安全・円滑な開催に向けた各種関連情報を収集・分析し、関係機関等に随時提供していると、同庁の活動を紹介している。
「インテリジェンスの力」への疑問
もちろん、東京オリンピックでテロが発生する可能性はあるが、同庁がこの特集で結びの言葉としている「公安調査庁は『インテリジェンスの力』で、東京大会の安全開催に貢献していく」という文言には、いささか疑問を持たざるを得ない。
前述の拙稿でも述べたが、日本の情報機関は、世界から見て決してレベルが高いわけではない。それは人員面でも予算面でも明らかだ。東京オリンピックでのテロの可能性を徹底的に排除するには、あまりにも貧弱だ。同庁が最大の強みとしているヒューミントにしても、「もともとテロに対する意識が薄い日本人の国民性から考えて、テロ防止のための情報網がうまく機能するとは思えない」(政府関係者)との見方も多い。
いずれにしても、入国管理の強化などを通じて、東京オリンピックが無事に終了することを願うばかりだ。
(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)