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大阪知事、厚労省文書根拠の往来自粛に「読み間違い?」と疑義、擁護も…府民の委縮招く

文=粟野仁雄/ジャーナリスト
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吉村洋文大阪府知事の公式Twitterアカウントより

 新型コロナウィルスの感染拡大が続くなか、大阪府吉村洋文知事(44)が19日にテレビ出演中、「20日からの3連休中は大阪と兵庫の間で不要不急の往来を自粛してほしい」と呼び掛けた。「爆発的な感染がいつ起きてもおかしくない」として、特に兵庫県で感染が広がっていることを示し、厚労省から提示された文書を根拠としてあげた。しかし、これに大きな疑義が出ている。 

 吉村知事は20日夕方にも出演していた在阪民放局のテレビ番組で「県(府)境超えの往来の自粛」を要請した後、府庁に押し掛けた記者団に「3連休で爆発的な拡大を防ぎたい」とした。さらに、「厚労省から説明を受けた。専門家から示された資料が根拠だ」として「独断」を否定したが、吉村知事が公表した厚労省の文書には、次のように書かれている。

「大阪府・兵庫県の全域において 感染源不明(リンクなし)症例が感染世代(5日程度)毎に増加。1人が生み出す二次感染者の平均値が兵庫県で1を超えている。見えないクラスター連鎖が増加しつつあり、感染の急激な増加が既に始まっていると考えられる」

 さらに、「必要な対策の方向性(案)」として「大阪府・兵庫県内外の不要不急な往来の自粛を呼びかける」とある。文意は「大阪府内外と兵庫県内外」ということだろう。もちろん広義には県(府)境越えも「外」に含まれるかもしれないが、少なくても厚労省案は兵庫県と大阪府の往来の自粛を特に求めているわけではない。

 そもそも、大阪府と兵庫県の往来を自粛することにどんな意味があるのか。例えば、JRの尼崎駅(兵庫県)と大阪駅はたった2駅だ。しかし同じ大阪市内の天王寺駅から大阪駅はずっと遠く環状線で9駅。電車に乗っている時間は長いし、感染リスクも高い。「無意味」と判断したのだろう。知事の発言後もJR、阪神、阪急両電鉄など両自治体を結ぶ交通機関は特段の措置は取っていない。

県(府)境越え自粛に意味はあるのか

 吉村知事はさらに以下のツイートを投稿した。

「厚労省から受けたこの提案を重視し、方針を決定した。単なる有識者やコメンテーターが作成したものじゃない。国がこの書類を持って大阪府と兵庫県にわざわざ説明に来て提案された。重要な事実と判断して外に出した。多くのコメンテーターはこんな数字なる訳ないと思うだろうが、僕は無視できない」

  一連の吉村知事の行動について、インターネット上では次のような声もあがっている。
 
「説明を聞いていないのか、文章が読めていないのか…この資料から、あの様な行政判断が下され、市民の人権に制限が加えられていることに、衝撃を禁じ得ない」
 
「この人、まだこのツイート、削除してないんだ(笑) 日本語理解力の低さを自らで露呈する恥ずかしい人。流石、維新。これでも弁護士かいな」
 
大阪府知事は文章が正確に読めないらしい。大阪府、兵庫県で不要不急の外出を控えないといけない、ということでしょう。大阪と兵庫の間の往来ではないです。文章を読めない人が知事になると大変なことになりますね」
 
 批判的なツイート記事が多いが、一方で「大阪府と兵庫県が府内外、県内外の往来自粛という事は、相互の往来は危険性が高く自粛した方がいいと読むのが当たり前やと思います。 日本語を読めないと批判するのは間違いだと思います」など擁護する声もある。

 吉村氏は20日朝、読売テレビの番組に出演し、独断ではなく厚労省の提案がベースにあったことを、厚労省から提示された文面を手にして再度強調した。しかし、「厚労省の非公開の提案だったが、松井(一郎大阪市長)さんと話しあって、これは公開したほうがいいと考えた。それが間違っていたかもしれない」とした。なんでも秘密にしようとする官僚の意図にかまわず、どんどん情報を公開してほしいが、今回は解釈の問題もあったようだ。

 20日朝、たまたま小生もテレビ出演の仕事で神戸市(兵庫県)の自宅から大阪市に出かけた。これは「不要不急」ではないが、仮に遊びでもかまわず行っただろう。さして意味があるとも思えない「県境越え自粛」をするつもりもないからだ。

 しかし、府の往来自粛要請を律義に守って神戸から大阪へ出なかった、あるいは大阪から神戸に行かなかった人は多いはず。20日付産経新聞では、明石市(兵庫県)の31歳の女性の「退職するのでお世話になった人のため、大阪・梅田にプレゼントを買いに行こうと思ったけどどうしよう」というコメントが紹介されている。連休中にゆっくり買い物をしたり、大阪や神戸で遊びたいという人も多かっただろう。 

地元経済には悪影響

 吉村知事は読み違えていないというなら、テレビでびっくりするようなことを言って目立ちたかっただけなのか。あるいはお隣、兵庫県の井戸敏三知事(74)を挑発したかったのか。要請までの間、まったく井戸知事との協議はなかった。井戸知事も吉村発言の後、会見で「不要不急の大阪との往来は自粛してください」と語ったが、「向こうが兵庫との往来と言ったから大阪を入れただけ。『外出を控えて』という言葉に往来を付け足しただけで従来の措置の延長線上」と説明。さらに兵庫県の爆発的感染について吉村知事が言及したことについて「向こうが勝手に発表している。コメントする気もない」などと、不快そうな表情で突き放した。

 吉村知事は大阪の人に「兵庫へは行くな」と言っている印象もある。3月20日現在、新型コロナウィルスの感染者数は大阪府が119人、兵庫県は93人だが、ライブハウスからの感染が一段落したように見える大阪府よりも、医療機関や高齢者施設で発生している兵庫の増加が顕著になっている。

 確かに吉村知事が一義的に「守るべき民」は兵庫県民ではなく大阪府民とはいえ、これが井戸氏の不快感を増したようだ。とはいえ、厚労省の提案は吉村氏よりも井戸氏が公開すべき内容だろう。

 いずれにせよ、ただでさえ閑古鳥が鳴き悲鳴を上げている阪神間を中心にした飲食店などはこの3連休、テレビでの「吉村発言」でさらに利益が落ち込んだはず。法的強制力などはなくとも、この状況下、阪神間の市民には「大変なことになった」という恐怖感も助長し、ますます動かなくなったことは事実だろう。怯えている市民をさらに「無用に」委縮させたなら不用意で罪な発言である。

粟野仁雄/ジャーナリスト

粟野仁雄/ジャーナリスト

1956年生まれ。兵庫県西宮市出身。大阪大学文学部西洋史学科卒業。ミノルタカメラ(現コニカミノルタ)を経て、82年から2001年まで共同通信社記者。翌年からフリーランスとなる。社会問題を中心に週刊誌、月刊誌などに執筆。
『サハリンに残されて−領土交渉の谷間に棄てられた残留日本人』『瓦礫の中の群像−阪神大震災 故郷を駆けた記者と被災者の声』『ナホトカ号重油事故−福井県三国の人々とボランティア』『あの日、東海村でなにが起こったか』『そして、遺されたもの−哀悼 尼崎脱線事故』『戦艦大和 最後の乗組員の遺言』『アスベスト禍−国家的不作為のツケ』『「この人、痴漢!」と言われたら』『検察に、殺される』など著書多数。神戸市在住。

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