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ツタヤ図書館、工事遅延の文書を独占入手!行政もひれ伏すCCCの“絶大な影響力”が判明

文=日向咲嗣/ジャーナリスト
【完了】ツタヤ図書館、工事遅延の文書を独占入手!行政もひれ伏すCCCの絶大な影響力が判明の画像1
「キーノ和歌山 HP」より

 和歌山市で、鳴り物入りでオープンする公共施設の工期が大幅に遅れていた――。筆者は、その経緯が記録された内部文書を独自に入手。これにより、これまでまったく表に出てこなかった、行政と民間とのせめぎあいの実態が浮かび上がってきた。

 6月5日、南海電鉄和歌山市駅前にグランドオープンする和歌山市民図書館。運営を担当するのは、全国にTSUTAYAを展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)だ。当サイトでは、関西初進出の“ツタヤ図書館”のプロジェクトにかかわるさまざまな不正疑惑を繰り返し報じてきたが、今回は工期遅延についての“ある疑惑”について迫ってみたい。

 下の画像は5月上旬、筆者が独自に入手した和歌山市民図書館の施工に関する説明資料である。

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 これを見た瞬間に、「なにか変だ」と感じられた人も多いのではないだろうか。日付もなければ、タイトルもない。あちこちに不自然な空白が配置されている。あきらかに何かが隠されている気配がして仕方ない。

 文書をいじくりまわしているうちに、PDFのあちこちに空白の画像を貼り付けてマスキング加工されていることが判明。それを剥がしてみたところ、違和感のない文書が現れた。それが下の画像である(赤字で囲んだ部分が消されていた)。

 2018年に財務省が開示した森友学園との交渉記録のうち、黒塗りでマスキングされた部分が剥がせると話題になったのを覚えている方もいるだろう。それと同じようにマスキングされていたようだ。

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白い画像をPDF文書の上に貼り付ける手法でマスキングされていた部分を、すべて剥がした文書。赤線の四角で囲んだ部分が白塗りを剥がした箇所。

“白塗り”を剥がした文書を詳細に見ていくと、市民図書館の工事が遅延した経緯を説明した文書であることがわかった。

 同館は、当初「19年10月オープン」とアナウンスされていたが、それが「19年12月オープン」になり、さらにはそれも再度延期になって、最終的には「20年4月オープン」と昨年、正式決定されていた。

 新型コロナウイルス感染拡大によって全国に緊急事態宣言が出されたため、この後さらに6月5日までオープンは延期となるのだが、それまでの2度の延期についての明確な理由は、和歌山市から示されていなかったが、この文書には、その最初の延期についての経緯が書かれていたのだ。

 先に、結論から述べておこう。新図書館の指定管理者(CCC)が提案した設計に関する資料提出が遅れたために、工事完成に1カ月半の遅れが出たと、この文書は結論づけている。つまり、「遅延したのはCCCの責任」だと明言しているのである。これは内部告発のための文書なのかもしれない。

 いったい何があったのか。17年11月、和歌山市は新しい市民図書館の指定管理者にCCCを選定した。着工は翌春以降で、先行して運営者を決めたわけだが、指定管理者の応募にあたっては「空間イメージの提案」を求めていた。選定後、CCCは建物の施主である南海電鉄にそのプランを提出して、そのままスムーズにいけば、そのプランも取り入れた新図書館が翌年7月には完成するはずだった。

 ところが、この文書には、次のような「異変」が記録されている。

<2018年3月 プラン再受領
・構造変更が必要なプランであったため、工程が遅れてもこのプランで進めるかを確認し、変更することで合意>

 注目したいのは「構造変更が必要なプランであったため」の部分である。事業者の公募時に「空間イメージの提案」を求められていたとはいえ、指定管理者であるCCCの担当範囲は、図書館の管理運営にすぎない。それなのに、工期が遅れるかもしれない「構造変更が必要なプラン」を提案して、不思議なことにそれがすんなり通っているのである。

 宮城県多賀城市など、CCCがこれまで手掛けたツタヤ図書館では、指定管理者として選定される前から、同社が自治体と連携協定を締結するなど、プロジェクトの企画提案からかかわっていた。しかし和歌山市では、CCCはそのような契約はしておらず、単に開館後の図書館運営を担当するだけのはずだ。

「空間イメージの提案」も、内装の参考意見として取り入れる程度のはずが「構造変更が必要なプラン」を提案して、それが通っているというから驚く。おかげで建築確認申請もやり直しとなって、大幅に遅れることが18年3月に報告されている。

 設計を担当したアール・アイ・エーが基本設計を完了したのは、前年の17年1月末。それに続く実施設計も、CCCが選定された2カ月後の2月までに終えていた。あとは、公募で選ばれた指定管理者の好む内装デザインを取り入れて、6月に着工、翌年7月には完成というスケジュールでいくはずが、いきなりここで“ちゃぶ台返し”のようなことが起きているのである。

 そのへんのせめぎあいが如実に現れているのが、次の記述である。

<南海から起工式での挨拶で公益施設棟供用開始時期について2019年10月と発表しない方向で和歌山市に依頼>

 19年10月オープンはもう無理なので、対外的にはそう言わないでほしいと、南海が和歌山市に依頼しているこの部分は、実は筆者が入手した段階では“白塗り”で消されていた。

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 だが、筆者が別に独自入手していた18年5月8日の関係者会議の会議録には、市民図書館サイドが、それと矛盾するこんな発言をしている。

「オープンの時期は、起工式で市長が平成31年(2019年)10月と明言しているので、当面はそのスケジュールで進める」

 和歌山市サイドは、南海の要請を完全に無視して、あくまでも「19年10月」の開館にこだわっていた。こうした意見の食い違いを隠すために、発言の一部を“白塗り”で消したのだろうか。

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18年5月8日に開催された和歌山市と和歌山県に南海電鉄を加えた調整会議では、起工式で市長が平成31年10月と明言しているので、当面はそのスケジュールで進める」と、市側は発言している。

 ところが、さらに不思議なことが出てきた。和歌山市当局は、南海が「構造変更が必要なプランで進めると工程が遅れるかもしれない」と通告してきた18年3月の時点では、市議会の経済文教委員会で遅延を容認していたことが判明。具体的には、坂下図書館長が「工期の見直しが必要になった」として「平成31年12月の開館を想定」と述べているのである。

 和歌山市は、関係者間では、あくまでも当初のスケジュール通りの開館を模索する一方で、市議会に対しては、早々と開館が遅れることを通告する“二枚舌”を使っていたことになる。

 さて、なんの変哲もない文書のこの後が、いよいよクライマックスである。

<2018年4月 プラン再受領(最終)、確定
・設計変更及び確認申請スケジュールにて6月着手は可能となった>

 17年11月にCCCが指定管理者に選定された直後の「プラン受領」から5カ月後、3度めの「プラン受領」で、ようやく設計は確定し、いったんは工事も予定通り進められるかにみえた。

 ところが、翌月5月には「変更工事工程指示」となり、「工事着手は変更なし」となっているものの、「最終図面UPが5月末」となったことから「工事完成が2019年7月末から9月中頃になったことを説明」と、予定していた翌年10月開館がかなり危うくなっている実情が報告されている。

 また、その下のJV(施工を担当する協同事業体)へ「提示した工程について再度説明の必要あり」とされていて、「工事完成時期を調整することを報告」と、工期が遅延する可能性について言及されているが、この部分も入手時には白塗りで消されていた。

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 このときの詳細なやりとりは、別の文書でも確認できる。この際の和歌山市サイドは、「CCCにスケジュールの調整をしてもらっているが、7月末の引き渡しを受けたら10月に間に合うということである」と、まだ10月開館にこだわっているが、それに対しても南海サイドが明確に難色を示している様子が記載されている。

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18年5月8日に開催された調整会議の発言。 「和歌山市が7月末に引き渡しを受けたら、10月開館に間に合うとCCCから言われた」としているが、南海電鉄は、それに対して難色を示している。

 そして件の文書の末尾には最終的に、こう明記されていた。

<指定管理者(編注:CCC)からの資料提供の遅延と構造図変更に伴い、現検討段階において、工事完成に1.5カ月の遅延が生じている>

 では、そもそも工期遅延の原因となった「構造変更の必要なプラン」とは、いったいなんだったのだろうか。建築設計に詳しいある関係者は、こう推察する。

「高層書架を取り入れたことによる変更ではないでしょうか。通常の図書館では、せいぜい高さ1.6~1.8メートルくらいの書架を想定して設計されていますが、CCCによるツタヤ図書館は4メートルを超える高層書架を採用しています。そうすると、それだけ床の積載荷重も増え、梁や柱など基礎にもかかわってくるので、構造設計を根本的にやり直さないといけません。かなり大きな設計変更になったのだろうと推測できます」

 そのうえで、CCCによるプラン変更が受け入れられたことについて、こう不思議がる。

「通常、指定管理者や建物に入るテナントは、与えられた枠のなかで運営するものですから、設計変更を要望してそれが通るということはありえません。設計変更によって生じた追加の費用を、いったい誰が負担するのかという話になりますので」

 主役は和歌山市のはずなのに、いつの間にかCCCがすべてを仕切っているかのような流れになっており、施主の南海電鉄すらも、その意向に振り回されているようだと疑問を投げる。

 上の文書を、ある図書館関係者は以下のように分析する。

「これは南海電鉄の内部文書だろうと思います。南海にしてみれば、ツタヤ図書館の誘致は和歌山市の問題であって、自社にとってはむしろ工事遅延のほうが大きな問題のはず。

 そこで、遅延の経緯を書いて南海電鉄の責任ではないことを明らかに示したのだろうと思います。この文書では、『遅延の犯人はCCCだ。CCCによってひどい目に遭わされた』と言っているかのように読めます。南海にとっても、惨憺たる負け戦です。CCCと自治体との関係では、CCCに対等に渡り合えるのは市長くらいしかいないと思っていたのですが、実際、南海にもそんな力はありませんね。CCCは、南海のことを“下請け業者”のように扱っています」

 なるほど、そういう見方をすれば、CCCによる図書館運営は、自治体が図書館運営を民間企業に託するものではなく、「ツタヤ図書館」というフランチャイズに、巨額の加盟金とロイヤリティを払って自治体が加盟する構図に近いのかもしれない。

 工期遅延の原因となる「構造変更が必要なプラン」を押し通し、巨額の公金を出す自治体も、建物の施主である南鉄も、CCCの絶大なる影響力の前にひれ伏しているかのようにみえる。

 和歌山市民は、そのようにしてつくられた図書館を、無批判に受け入れられるのだろうか。ちなみに、南海電鉄広報部に問い合わせたところ、以下の通り回答があった。

「出所不明の文書についてコメントはできないが、工期に変更があったかどうかについては、関係部署に確認したところ、以下の通りであった。

 18年2月に公益施設棟の実施設計が終わった後、和歌山市様からの設計変更の申し出があり、それに対応するため、結果として、竣工が当初予定の19年7月末から19年10月7日の約2カ月遅れることになった」

(文=日向咲嗣/ジャーナリスト)

日向咲嗣/ジャーナリスト

日向咲嗣/ジャーナリスト

1959年、愛媛県生まれ。大学卒業後、新聞社・編集プロダクションを経てフリーに。「転職」「独立」「失業」問題など職業生活全般をテーマに著作多数。2015年から図書館の民間委託問題についてのレポートを始め、その詳細な取材ブロセスはブログ『ほぼ月刊ツタヤ図書館』でも随時発表している。2018年「貧困ジャーナリズム賞」受賞。

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