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篠崎靖男「世界を渡り歩いた指揮者の目」

オーケストラがベートーヴェンを演奏する“本当の”意味…楽団と指揮者の真価を暴く怖い存在

文=篠崎靖男/指揮者
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ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(「Wikipedia」より/Blight55)

 本連載の過去記事でも紹介しましたが、今年は作曲家・ベートーヴェンの生誕250周年です。この数年間、世界中のオーケストラは、あえてベートーヴェンをプログラムに入れずに、今年、一挙に演奏しようという企画が目白押しだったのですが、新型コロナウイルスの感染拡大という特別な状況により、オーケストラだけではなく音楽界全体がストップしてしまいました。

 現在、日本国内ではコンサートが再開してきているので、やっとベートーヴェンを聴いていただくことができそうです。しかし、ベートーヴェンはコンスタントに集客を見込めるオーケストラの“ドル箱”だっただけに、大きくもくろみが外れてしまいました。

 話は変わりますが、オーケストラは大まかに、定期演奏会、名曲コンサート、音楽教室という3種類の演奏会があります。

 まず定期演奏会というのは、自分たちで企画・運営をし、経済的責任も持ちながら、年に10回とか30回とか定期的に演奏します。定期演奏会には、オーケストラの個性を出しながら、演奏レベルを上げる役割があるので、スタンダートな曲だけではなく、新しい曲や演奏が大変難しい曲にもチャレンジします。そのために大掛かりなコンサートになったり、出演料が高い指揮者やソリストに依頼することも多く、収支は赤字覚悟です。しかし、オーケストラ活動の中心なので、お金よりもプライドをかけており、通常3日間のリハーサルの間、楽員の真剣な顔がいつも以上に怖くなります。

 その次の名曲コンサートは簡単に言うと、チャイコフスキー、ドヴォルザーク、ブラームスなどの有名な交響曲に、モーツァルトのピアノ協奏曲、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲のような名曲で構成されたプログラムです。常連客だけでなく、「たまにはクラシックもいいね」というたようなライトなファンにも楽しんでもらえるコンサートです。

 もちろん、今回のテーマでもあるベートーヴェンも名曲コンサートの主役のひとりです。ベートーヴェンの交響曲第5番「運命」や、映画『のだめカンタービレ』(東宝)で一躍有名になった交響曲第7番をはじめ、ピアノ協奏曲やヴァイオリン協奏曲も含めて、ベートーヴェンは大人気です。しかし、名曲コンサートでよく使われるからといって、定期演奏会ではあまりベートーヴェンの曲を取り上げないかというと、そんなことはありません。むしろ、オーケストラと指揮者の真価がわかってしまうような怖い存在といえます。もし、定期演奏会でベートーヴェンが入っているのを見つけたら、そこには大きな意味合いがあると思っていただいていいと思います。

 最後の音楽教室というのは、子供たちの前で演奏して、オーケストラを聴いてもらうコンサートです。そのほかに、「依頼公演」というのもあります。現在、活動が多様化しているオーケストラですが、地方のホールやスポンサーの意向を受けたプログラムを演奏したり、時にはポップス歌手の伴奏を務めたりとさまざまで、合唱団が「自分たちの合唱指揮者の指揮で、オーケストラとベートーヴェンの第九を演奏したい」と依頼してくることもあります。

 余談ですが、『第九』を依頼された団体の合唱指揮者が、当の合唱団にとっては最高の指揮でも、オーケストラにしてみると指揮が自己流すぎて「ちょっとどうか?」と首を傾げるような場合もあります。それでもオーケストラは、プロとして良い演奏をすることはもちろんです。もし、依頼主が演奏に満足してくれなかったら、次回から呼んでもらえなくなるかもしれません。音楽教室や依頼公演は、雇われて出演料を頂くので、その収益は定期公演を助けてくれる大事な仕事でもあります。

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