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ケースで見る!「働くハイスペック女子」への処方箋

テレワーク開始から6カ月たち、「メンタルヘルス不調者」が明らかに増えている

文=矢島新子/産業医、山野美容芸術短期大学客員教授、ドクターズヘルスケア産業医事務所代表
テレワーク開始から6カ月たち、「メンタルヘルス不調者」が明らかに増えているの画像1
「Getty Images」より

 日頃、家庭と仕事の両立に多くのエネルギーを使っている多忙な女子にとっては、期せずして新型コロナウイルス感染拡大によるテレワーク在宅勤務で、フィジカルには辛い通勤を避け、無駄に時間を浪費する会社での雑談もせず、仕事や家事をしながら食事も済ませられるようになり、ホッと胸をなでおろした方も多いはず。日ごろロスタイムと感じるものを、きれいさっぱり遠ざけてくれたコロナって、なんだかまるで救世主のようと思っていませんか。

 大きな声では言えないけど、この状況がもう少し続いてくれないかな、と思っている女子も産業医先で多く見かけます。でも、気をつけないといけないことがあります。今回は少し警鐘を鳴らしたいと思います。多くの企業が急にテレワークを始めて半年ほど経過した現在、引き続きテレワークを続けている企業では、段々と不調者の増加が見て取れているのです。これは、特に新卒や転職、異動したばかりの社員、そしてなにより業務過多の社員に多い傾向があります。

 私が産業医をしている企業の例から紹介します(主旨が変わらない範囲で個人情報に配慮し内容を一部変更、組み合わせています)。

・A子さん 独身28歳

 予想外に長く続いている在宅勤務、最近仕事に行き詰まったときに、前より一人へこむことが多い。家ではなんだか仕事しかない毎日。仕事仲間との雑談もなく、一日一人でPCに向かって仕事が一段落ついたときには夕暮れ。こんな日が続いているとふと寂しくなる。そういえば、気心の知れた同期との会話は随分としていない。週1、2回出社日があるものの、出社してもオフィスは疎ら。出社しても会議室でオンライン会議に入る羽目になる。必要以上はオフィスでの仕事はしないで家でやることにする。

 仕事と生活に境界線を引けず、一日中仕事している気がする。どこか仕事とプライベートのオンオフがなくなり、じわっとした緊張が続いていてリフレッシュできない。気分が上がらないし、仕事のモチベーションを上げるのが難しくなってきた。

・B子さん 35歳

 転職して半年。仕事を覚えないうちに在宅勤務となってしまった。上司や先輩が忙しい人たちなので時間が限られているから、メールやオンラインでの質問も選ばなくてはならないけど、それも難しい。やることが多いのに無駄も多い毎日。日常業務の上にプロジェクトも追加されている。たまに行く会社は22時には退社しないといけないが、無理やり切り上げる。唯一の楽しみの海外旅行には行けない。国内旅行も、万が一、感染したら絶対ひんしゅくをかうので行けない。友人も子供が居るので、気楽に誘えない。

 A子さんやB子さんのように在宅勤務でかつ業務負荷も高いまま、オンオフがなく心身のストレスを感じ始めている方が増えています。また、いつもの気分転換やストレス発散ができないためストレスは溜まる一方というわけです。特に病院に行く必要があるレベルまでではないにしても、彼女たちのようなメンタルヘルス不調予備群の方は多く見かけます。

テレワークのメリットとデメリット

 テレワークには以下のようなメリットがあるといわれています(International Journal of Healthcare. July2017から)。

・ワークライフバランスが整う

・通勤時間の短縮

・生産性の向上

・仕事の満足度が上がりやすい

 一方でデメリットは、

・仕事と家庭の境界線の曖昧さ

・長時間労働になりがち

・社会的孤立

・機器類の不備

・同僚からの不満

などです。

 このデメリットの影響が現れるのには、時間差があります。1万6,000人の従業員を擁し、NASDAQに上場している中国のある会社が在宅勤務の実験をしたのですが、在宅勤務は13%ものパフォーマンスの向上につながったとの報告がされています。在宅労働者も仕事の満足度が向上したと報告していたのですが、フルタイムの在宅勤務が3カ月以上続くと健康障害が出やすいことも同時に報告されています(The Quarterly Journal of Economics, Volume 130, Issue 1, February 2015

 テレワークが長期化した場合発生しやすい健康障害は、具体的には以下の4つといわれています。

・筋骨格系問題(通勤がない分、運動不足でしょうか)

・孤独とうつ病

・ストレスと長時間労働

・生活習慣病

 メンタルヘルス不調も、発症までに時間差がありますから、テレワーク開始後数カ月経過した今ごろになって不調を訴える人が増えるのも納得がいくわけです。実際に産業医として、8月ごろからメンタルヘルス不調者が増えていると実感しています。

 前述のように仕事と生活の境目がなくなっていく感覚が起こっている人は、要注意ですが、予防方法としては、いくつかありますので安心してください。

維持したい3つのポイント~適切な時間管理、コミュニケーション、運動

 家に居るからこそ時間管理は重要です。始業時間にPCに向かい、終業時間にはPCの電源を落とすこと。一度PCを落としたら、明日の朝までは我慢してくださいね。あとは夕食の買い物に出るなり、営業自粛が少し緩んだレストランで家族と外食するのも良いでしょう。

 また、仲間とのコミュニケーションも重要です、分業でこなす業務で協業するのがベストですが、難しいのであれば共通点ではなく相違点に注目した意見を共有するように、上司や同僚とのリモートでの会話の機会をできるだけ設け、話題は業務報告だけではなく、ちょっとは雑談・無駄話も許してもらいましょう。なにせモニターに映るのですから、お化粧にも力を入れてみましょうか。

 それと、世間で言っているテレワーク太りを、あなたは感じていなくても、テレワークは確実に体力を奪っていますよ、家でできる運動を習慣づけてみましょう。

 最も簡単な指標は「歩数」と「体重」です。ネットで手軽に室内でできる運動なども紹介されていますので、始業時間前と終業時間後にどうでしょうか。せっかくテレワークにより生まれた隙間時間は、うまく利用して趣味や勉強に充て、軽い運動もするなどすれば、ストレスもうまく発散できます。 

 そういえば英語民間試験TOEICの受験希望者が例年に比べ激増したため、受験申込が抽選になるという珍事が発生しているそう。忙しくてできなかった英語の勉強ができる時間を手に入れた人が多いのでしょうか。

 自分に余計な負荷をかけてしまうと逆効果ですが、普段できなかったものにチャレンジできるのも、テレワーク期間の楽しみなのかもしれません。

(文=矢島新子/産業医、山野美容芸術短期大学客員教授、ドクターズヘルスケア産業医事務所代表)

矢島新子/産業医

矢島新子/産業医

矢島新子
山野美容芸術短期大学客員教授。ドクターズヘルスケア産業医事務所代表。東京生まれ。東京医科歯科大学医学部卒。パリ第1大学大学院医療経済学修士、WHO健康都市プロジェクトコンサルタント、保健所勤務などを経て産業医事務所設立。10年にわたる東京女子医科大学附属女性生涯健康センターの女性外来、産業医として数千人の社員面談の経験より、働く女性のメンタルヘルスに詳しい。著書に『ハイスペック女子の憂鬱』(洋泉社新書)ほか。
株式会社ドクターズヘルスケア

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