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浜田和幸「日本人のサバイバルのために」

バイデン米国新大統領は、トランプ以上に“日本の弱み”につけ込む…危険な男の正体

文=浜田和幸/国際政治経済学者
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ジョー・バイデン新大統領のツイッターより

 日本では新型コロナウイルスの感染が収まらず、「緊急事態宣言」の掛け声も寒空に空しく響くばかりである。菅内閣の支持率も急落し、このままでは菅政権の命運も早晩尽きるのではないか、との観測が広がる一方だ。医療体制の逼迫も危機的状況に直面しているため、一刻の猶予も許されない。果たして、強いリーダーシップを発揮し、形勢逆転につなげることができるのだろうか。

 一方、世界最悪のコロナ感染に見舞われ、40万人近くが命を失っているアメリカでは、1月20日に新大統領の就任式を控え、前代未聞の混乱状態が続いている。昨年末に共和党の政治家8人が急死するという異常事態も発生。いまだに、昨年11月の大統領選挙の結果をめぐって、現職のドナルド・トランプ陣営と「勝利宣言」を行ったジョー・バイデン陣営との間では、対立が収拾する兆しが一向に見えない。

 両陣営とも史上最高の得票数を得ており、コロナ禍の影響で急増した郵便投票の集計で「不正が行われた。非合法な選挙だった」との主張を緩めないトランプ陣営だ。それどころか、トランプ大統領は1月6日に首都ワシントンで「不正選挙糾弾」のデモ参加者に向け「連邦議会へ突撃せよ」と檄を飛ばした。全米から集まった熱烈なトランプ支持者は暴徒化し、議事堂を一時占拠し、選挙人による新大統領指名投票を中断させようと試みた。まさに前代未聞の事態となり、その騒動のなかで6人もの死者と多数の負傷者が発生することにもなった。

 とはいえ、4時間ほどでデモ隊は排除された。しかし、トランプ大統領も過激な白人至上主義たちも諦めていない。「最後のチャンス」とばかり、1月20日に予定されている新大統領の就任式に、さらに大規模な「トランプ支持」のデモを企てているようだ。トランプ大統領は前例を無視し、新大統領の就任式には出席せず、フロリダの別荘で4年後を見据えた「2024年再選キャンペーン」の開始を宣言するという。

 いずれもアメリカ史上初めてのことで、民主的でスムーズな政権移行とは程遠く、「分断、分裂国家アメリカ」を象徴する動きにほかならない。1月20日の昼12時をもってホワイトハウスの明け渡しを求められているトランプ大統領は、「バイデンは不正な手段で大統領選挙を盗んだ。こんな違法な大統領を認めるわけにはいかない。4年後に正当な選挙で返り咲く」との演説をぶつ考えのようだ。

 こうした状況では、目前のコロナ対策はおろか、国内経済の立て直しも中国との技術覇権争いにも「国家を挙げての取り組み」は難しいだろう。かつての超大国アメリカの威光は「風前の灯火」といっても過言ではない。とはいえ、7400万票を獲得したトランプ大統領は強気一辺倒で、自らを「キリストの再来」となぞらえるほどの厚顔ぶりである。

 その影響があるのかどうか、ホワイトハウスの前主治医で海軍少将のジャクソン氏に至っては「トランプ大統領の寿命は200歳まで保証されている。他方、バイデン氏は精神面でも肉体面でも国軍の最高司令官の任には堪えない」と公然とバイデン批判を繰り出す有様だ。

トランプとの共通点

 そんななか、第46代の大統領に就任することが確実視されているのが、御年78歳のバイデン元副大統領である。オバマ大統領時代に2期8年にわたり副大統領を務めたわけだが、トランプ大統領がたびたび批判したように、「長年ワシントンの政界にいたが、これといった実績のない居眠りバイデン」とも揶揄されてきた。巷間、「就任すれば、ジミー・カーター以降、最も弱い大統領になるだろう」と厳しい指摘も受けている。

 では、実際のバイデン氏はどのような人物なのか。1942年11月20日生まれで、73年から政治家として活動してきた。とはいえ、その名前が知られるようになったのはオバマ大統領の副大統領候補に指名されてからのこと。「チェンジ」を訴えたオバマ氏との二人三脚でようやく頭角を現すようになった。

 ちなみに、副大統領当時の給与は23万ドル。納税証明書によれば、現在の資産は900万ドル。この点、納税証明書を公表しないトランプ大統領と違い、金銭の出し入れに関する情報は透明性が高いといえるだろう。

 上院議員を長年務めてきたが、実績として挙げられるのは、90年の女性への暴力禁止法、2002年のイラクへの軍事介入、そして10年の低所得者向け健康保険法の実現といった程度にすぎない。お気に入りの趣味は車。ただ、副大統領になってからは運転を許されず。「副大統領職で嫌いなことは運転できないこと」と周囲に漏らしていた。

 幼い頃は吃音で、同級生たちからしょっちゅういじめに遭う。なんとか吃音を克服しようと、毎晩、イエーツやエマーソンの詩を朗読したという。それでもなかなか克服するには至らず、大学で演説(パブリックスピーキング)の授業を受けるまで自信を持てなかったらしい。今でも、時折、発声につまることがある。そのため、トランプ大統領からは「吃音で認知症気味のバイデン」と辛らつな言葉を投げかけられたものだ。

 そのトランプ大統領との数少ない共通点は、お酒を飲まないこと。トランプ氏曰く「人生で一度もビールを飲んだことはない。どんなことがあってもアルコールは口にしない。なぜなら、飲めば最悪の状態になることがわかっているからだ」。一方のバイデン氏は「アルコールで問題を起こしてきた家系であるから、お酒には触れない」。実は、バイデン氏は病気との縁が深い。それもアルコールを避けている理由と思われる。

 というのも、1980年代には生死の境をさまようような経験をしていたからだ。ある日、突然、首に痛みを感じ、「あたかも電気ショックを受けたようだった」という。首が引き裂かれるような衝撃だったらしく、CTスキャンの結果、脳の直下に動脈瘤が発見された。88年、2つ発見された動脈瘤の内、大きいほうを切除することになった。当時の医師は「生存率は35から50%」と説明したらしく、バイデン氏は最悪の事態を覚悟した。

 実は、バイデン氏は家族の悲劇に次々に襲われてきた。例えば72年、妻(30歳)と娘(13カ月)を交通事故で失った。子供たちを乗せて妻がクリスマスツリーを買いに行く途中で、トラクターに衝突されたのである。2人の息子は一命をとりとめたが重症を負った。

 バイデン氏は残された息子たちの養育に全力で当たった。要は、「息子たちが救い」だったわけだ。73年、上院議員初当選の宣誓は息子ボーの入院中の病院の枕元で行うという異例の状況下での政治家デビューとなった。2015年、その長男ボーは46歳という若さで、脳腫瘍が原因で死亡。

 もうひとりの息子ハンターは、海軍予備役時代にコカイン陽性反応で除隊を余儀なくされた。今回の大統領選挙中もトランプ大統領が繰り返し批判したように、ハンターはウクライナや中国とのビジネスで父親のコネでぼろ儲けしたといわれている。その真相は藪の中だが、副大統領だった父親の立場を巧みに活かし、中国のエネルギー会社の役員や海外の投資家をホワイトハウスに招き入れ、商談をまとめ上げたとされる。

 それどころか、先に亡くなった兄の妻と不倫関係に陥り、子供もつくったというからバイデン氏も困り果てたに違いない。しかも、麻薬とアルコール依存症から抜けられないため、何度もリハビリに通ったという戦歴の依存症のある息子であった。

借金まみれ、女性問題

 もうひとつのトランプ大統領との共通点は「借金まみれ」ということだ。現在の資産はすでに紹介したが、副大統領に就任した時点で、16.5万ドルから46.5万ドルの借金を抱えていたのがバイデン氏。加えて5万ドルのクレジットを年利7.5%で返済中。上院連邦信用組合から個人的借金を重ねており、こちらは年利9.99%。

 記録によれば、05年には10年の住宅ローンを組んでいる。金額は10万ドルから25万ドル。息子のためにも5万ドルから10万ドルのローンを肩代わりしている。07年に出版したオーディオブック「Promises to Keep」の前払いでも支払い金は9563ドルだったので、多額の借金の返済には焼け石に水であった。

 もちろん、こうした借金の額はトランプ氏とは比較にならない。なぜなら、トランプ大統領の場合は4億ドルとも5億ドルともいわれ、桁が違い過ぎるからだ。

 3つ目のトランプ氏との共通点は女性問題である。トランプ氏の浮気性は有名だが、バイデン氏も19年、8人の女性からセクハラ疑惑で訴えられた。本人は否定し、「政治家として訪問先で有権者と握手をしたりハグしたりすることがたびたびある。そうした行動が女性を不愉快にしたとすれば、大いに反省したい。今後は十分に気を付ける」とのコメントを出している。

 いずれにせよ、バイデン氏がよく口にする父親から学んだ言葉は次のようなもの。「男の価値は何度ノックダウンさせられたかではない。その都度、いかに早く立ち上がるかだ」。トランプ大統領からはテレビ討論会でも「居眠りジョー」とか「ベイジン(北京)・バイデン」などとバカにしたり、茶化されたりしたものだ。

 しかし、これまでのところ、毎回、素早く立ち上がってきている。果たして、いつまで『あしたのジョー』を演じることができるのか。1月20日に予定されている大統領就任式でどのような就任演説が行われるのか。はたまた、分裂国家を融和の方向に軌道修正できるのか。複雑化する米中対立に改善のきっかけを見いだせるのか。

主要閣僚の人事構想

 すでにバイデン政権の主要閣僚の人事構想は次々に明らかにされている。概ね、オバマ政権時代の専門家集団が再登場するような顔ぶれだ。経験豊富な専門家揃いともいえそうだが、必ずしも政策がスムーズに遂行されるという保証はない。なぜなら、イラク戦争にしても、民主党政権時代には情報収集がうまくいかず、悲劇的な事態を防げなかったからだ。また、オバマ政権下で行われたイランとの核合意やキューバとの国交正常化も、その後のトランプ政権下でみなご破算にされてしまった。

 加えて、大統領の警護にあたるシークレットサービス要員の人選も難航している。副大統領の時代に仕えた気心の知れている要員を再度身近に配置したいと願うバイデン氏であった。ところが、トランプ大統領の4年間の間に、腐敗が蔓延したようで、まともな人材は皆、配置換えや引退を余儀なくされていることが判明。トランプ大統領の身辺警備からバイデン氏に横滑りする要員には「トランプ命」といった人間もいるため、とても安心してバイデン一家の安全を任せられないという困った事態が発生している。新大統領の警備に齟齬を来すような異常事態がないとも限らないのである。トランプ大統領の置き土産には、さまざまな毒が盛られている可能性が高い。

 また、バイデン氏が去る12月28日に「国防上の優先順位を見直す」との発言をしたことも、共和党のタカ派の反発を買っている。いわゆる軍産複合体を構成する防衛産業はトランプ政権下で空前の国防予算を手に入れ、わが世の春を謳歌してきた。そこにメスを入れられては一大事とばかり、バイデン氏の安全保障政策にも横やりを入れるだろうことは容易に想像できる。

 実は、電話で大統領選勝利への祝意を伝えた菅首相に対し、バイデン次期大統領は「日米安保条約に照らし、尖閣諸島の有事に際しては、アメリカが関与する」との言質を与えたとのこと。しかし、これは菅首相の勝手な解釈で、新政権移行チームのホームページを見ると、バイデン氏は尖閣諸島に関しては具体的な言及を避けていたことがわかる。あくまでリップサービスの域を出ない発言しかしていないのである。

 本稿ではトランプ大統領との3つの共通点を紹介したが、4つ目が「同盟国であろうと強かに取るべきものは取る」という姿勢だ。バイデン氏はファイザーなどワクチンメーカーと緊密な関係を結んでいる。献金額でもバイデン支持の中心的存在がファイザーである。そのためトランプ大統領がホワイトハウスで開催した「ワクチンサミット」にファイザーの社長らは皆、欠席することで間接的なバイデン支持を明らかにした。

 見返りにバイデン氏は自分が新大統領に就任した暁には「ワクチンの1億回分配布を宣言する」と約束。知られざるバイデン氏の暗躍ぶりといえるだろう。もちろん、アメリカ製のワクチンを大量に日本に売り込む準備も怠りない。要は、日本の弱点につけ込む仕掛け人としてはトランプ以上といえそうだ。「居眠りバイデン」というレッテルに騙されてはいけない。

(文=浜田和幸/国際政治経済学者)

浜田和幸/国際政治経済学者

浜田和幸/国際政治経済学者

国際政治経済学者。前参議院議員、元総務大臣・外務大臣政務官。2020東京オリンピック招致委員。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士

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