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東京五輪、“史上最低”の開催になる恐れ…中止すれば北京冬季五輪にも影響か

文=中村俊明/スポーツジャーナリスト
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IOC総会後の橋本聖子会長(「東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会公式サイト」より)

 “史上最低”の五輪は、このまま強行開催されてしまうのだろうか。

 森喜朗・元大会組織委員会会長の女性蔑視発言、正式発表されない開催の可否、新型コロナウイルスの感染が拡大する諸外国の状況を、まるで無視したかのような自国ファーストの発言の数々。本来、政治と切り離して考えるべき五輪が政治家たちの道具として取り扱われる状況は、歴史を回顧しても“異常”といっても大袈裟ではない。

 ある調査によると7割以上の国民が開催に反対しており、五輪の公式スポンサーの中ですら一連の騒動に関して喫驚の声が上がっているという。本来、五輪が持つ精神ともっともかけ離れた政府の舵取りは、諸外国からも呆れた眼差しを向けられている。

 日本での報道は限定されていたが、そもそも総理大臣まで務めた森元会長のような政治色の強い人間を組織委員会のトップに置くという人選にも、大きな疑問が投げかけられてしかるべきであった。齢80を超えた元総理をどういった論理で組織のトップに据えていたのか。

 組織委員会からも「何があっても開催する」というような開催前提の発言が目立つ一方、聖火リレー走者からは辞退が相次ぎ、苦境に立つ医療従事者への配慮も当然のように見られない。その極めつきが、まるでコントのような川淵三郎氏への会長オファー→就任受諾→辞退という一連の流れだった。

 結果、橋本聖子元五輪相が組織委員会会長に就任することになった。自民党関係者は、裏事情をこう明かす。

「橋本聖子現会長が森元会長の後任と報道されたとき、『やはりな』と思いましたね。もはや組織委員会会長は誰がなっても汚れ役。女性を置くことで対外的なアピールにもなります。そこに菅政権の“傀儡”である橋本氏を据えることで、コントロールがとれます。

 個人的な意見ですが、格的にいえばJOC(日本オリンピック委員会)会長であり、世界的な認知度も高い山下泰裕氏が適任でしょう。しかし、森氏の発言が世界的にも大きく騒がれたこともあり、山下氏には“自身が前に出る”という気概はなかったようです。政府としては誰をスケープゴートにしても、どんな状況であれ五輪開催を強行したいというのが本音です。中止決定をすれば賠償金問題も発生しますし、これだけ自国での五輪開催をアピールしてきたにもかかわらず中止となれば、今年の衆議院解散・総選挙でも自民党が議席を大幅に減らすことにつながるため、それだけは避けたいところです」

 別の自民党の関係者は、都政と政権の連携にも大きな問題がある、と危惧する。

「小池百合子都知事は、新型コロナと五輪を自身のアピールの道具として利用し、今のところそれが成功しています。菅義偉総理としては、その状況が面白くないわけです。世間の反応を見ると、どちらかといえば“小池劇場”に押されている形。風見鶏な小池氏のことですから、世間の反応を見ながら政権への圧力もかけているのが現状です。

 仮に五輪が中止となったところで、政府のせいにできるため、小池氏にとっては自身のキャリアに傷がつくわけではありません。総理としては、相次ぐ不祥事を緩和する意味でも五輪は格好の舞台なわけで、2人の意思が一致する理由は見当たりません。とはいえ、元を辿れば菅総理と小池都知事の仲違いの理由は“私怨”ですからね。お互いに歩み寄って譲歩できないものか、と思ってしまいますよ」

開催or中止の決定が次の五輪にも影響

 もっとも今回、開催/中止の決定がこれだけ遅れているのは、“ある大国”の存在が大きい、という見方もある。JOC関係者が、こう明かす。

「2022年の北京冬季五輪開催が予定されている中国との兼ね合いも大きいです。というのも、仮に東京五輪が中止となった場合、次の国際的な視線は中国での冬季開催に向かうわけです。東京が中止となった場合、北京の冬季開催もかなり厳しい状況に追い込まれます。もともと新型コロナウイルスが中国から世界に広がったわけで、日本よりも中国に対しては、見方がより厳しくなります。もはや東京の開催/中止の決定は、中国の動向も大きくかかわる時期に差し掛かってきています」

 仮にこのまま五輪が強行された場合、どうなるのか。感染拡大が進むブラジル、世界最大の感染者数を出すアメリカ、いまだ厳しい状況にある欧州のなかには、必然的に不参加という選択を行う国も出てくる。満足に練習できる環境にないアスリートも少なくない。現状でも競技者の選考が完了していない競技も多くあり、時間的に考えても間に合わすことは困難だ。前出のJOC関係者が続ける。

「コロナの状況を鑑みると、欧州などから必ず不参加国は出てくるでしょう。その対応を日本はどうするのか。今後はそういった対応でも賛否が分かれるはずです。そして何より、競技者のなかでも満足がいくパフォーマンスができるかは不透明です。加えて問題なのは、五輪という“枷”でアスリートたちをしばり続けるという傲慢な思考です。アスリートへの敬意が欠けているということを、どれだけの政治家は理解しているでしょうか」

 近代五輪の父とされるピエール・ド・クーベルタンは、五輪の意義について、このようなスピーチを述べたという。

「オリンピックの理想は人間をつくること、つまり参加までの過程が大事であり、オリンピックに参加することは人と付き合うこと、すなわち世界平和の意味を含んでいる」

 かつてこれだけ政治の歪みに翻弄された五輪があっただろうか。クーベルタンも草葉の陰で泣いていることだろう。
(文=中村俊明/スポーツジャーナリスト)

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