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吉澤恵理「薬剤師の視点で社会を斬る」

東京五輪、元男子選手が女子選手として出場の初のケースに…線引きは男性ホルモンの量?

文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト
東京五輪、元男子選手が女子選手として出場の初のケースに…線引きは男性ホルモンの量?の画像1
「Getty Images」より

 トランスジェンダーであるニュージーランドのウエイトリフティング選手ローレル・ハバードが、女子87キロを超えるクラスで東京オリンピックの出場権を獲得し、物議を醸している。

 実は、ローレル・ハバード選手は、20代の頃は男子選手として活躍しており、30代でホルモン治療を受けて女性となった。女性となった後も競技を続け2020年、イタリア・ローマで開催されたワールドカップでは、女子選手として+87kg級で金メダルを獲得している。

 男性としての選手時代があり、「もともと男性としてトレーニングをしていた」「骨格が男性に見える」などといった点から、女子選手としてオリンピックへの参加を認められたことに違和感を覚える人も少なくないようだ。競技における選手の健康やドーピングに詳しいスポーツファーマシストの石田裕子氏に話を聞いた。

トランスジェンンダーに関するガイドライン

 日本では、今回のニュースにさまざまな意見が飛び交っているが、世界ではトランスジェンダーはすでに認められた存在である。

「IOCの現在のガイドラインの下では、女性から男性へのトランスジェンダーのアスリートは“制限なし”で男性の競技会に参加する資格があります。一方、男性から女性へのトランスジェンダーのアスリートは、ホルモン療法を受け、最初の競技の前に少なくとも1年間、血中のテストステロンレベルが10nmol/L未満であることを証明する必要があります」

 テストステロンは男性ホルモンの代表であり、筋肉質な男性らしい体型や骨格をつくる。テストステロンは一般に、女性の体にも男性の5~10%ほど存在するが、人によって差がある。

「男性はテストステロンが減少すると体が女性化し、肌質、汗、臭い、乳房の発達、腰と太もも周りの脂肪の増加、腕と脚の筋肉量の減少、スタミナの低下などの変化がみられます。また、テストステロンだけが要因ではなく、人種によっても骨格や体格などに違いはあります。肺活量やホルモン調節後の筋力などは本人の努力次第なので、私としてはローレル・ハバード選手の件は、不公平ではないと思っています。しかし、今回の場合は初めてのケースということもあり、世間からは不公平という声が圧倒的に多いように思います」

分類の難しさ

 石田氏は、「男性」「女性」というカテゴリを外見のみの生物的要素で分類するのか、ホルモンを含めた要素で分類するのか、難しいところだと話す。

「別のパターンとして、09年に南アフリカの女性アスリート、キャスター・セメンヤ選手が800メートルで世界大会を制した後に、通常の女性の3倍のテストステロンを分泌する疾患だったことがわかりました。彼女は12年のロンドンオリンピックで銀メダルを獲得しましたが、18年11月以降、国際陸上競技連盟がテストステロン値の高い女性アスリートに対して服薬によってテストステロンの基準値を下回らなければ大会に出場できないという規制をつくったため、競技大会には出場していません」

 過去の事例から見ても、テストステロンの量がパフォーマンスに影響する可能性は高い。IOCの示す、「競技の前に少なくとも1年間、血中のテストステロンレベルが10nmol/L未満であること」という基準を厳守できれば、身体的には女性と分類することに競技上の問題はないと思われるが、今後もこの問題は、議論が続く可能性もある。

 現代社会においてトランスジェンダーは、決して少なくない。スポーツに限らず、新しい基準が必要となる時代なのかもしれない。
(文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)

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吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト
1969年12月25日福島県生まれ。1992年東北薬科大学卒業。薬物乱用防止の啓蒙活動、心の問題などにも取り組み、コラム執筆のほか、講演、セミナーなども行っている。

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