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吉澤恵理「薬剤師の視点で社会を斬る」

アルツハイマー治療薬が米国で承認、専門家の間でも物議…日本医療にも甚大な影響の可能性

文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト
アルツハイマー治療薬が米国で承認、専門家の間でも物議…日本医療にも甚大な影響の可能性の画像1
「Getty Images」より

 米食品医薬品局(FDA)は6月7日、米バイオジェン社の「アデュカヌマブ」をアルツハイマー病(AD)の治療薬として迅速承認した。米国でのAD治療薬の承認は、2003年10月のメマンチン以来、18年ぶりとなる。しかし、アデュカヌマブの承認には、海外のみならず日本でも疑問視する声が多い。

 FDAが行う迅速承認(Accelerated approval)プログラムは、生命にかかわる重篤な疾患の治療薬で、「治療開発の必要性」を満たす医薬品が対象となる。迅速承認制度は、通常の医薬品の認証制度で行われる評価項目の代わりになる「代替評価項目」に基づいて承認する。代替評価項目は、対象となる医薬品がどの程度の治療効果があるかを示す間接的な指標である。その指標は予測的な側面もあるため、迅速承認後も検証的臨床試験が必要であり、対象医薬品の有用性を示すことが必要である。承認後の臨床試験によって、その効果や有用性が認められなければ承認が取り消されるという不安もあり、迅速承認自体に100%の信頼が持てるとはいいがたい。

アルツハイマー病の原因はひとつではない

 近年、認知症に関する研究が進み、その原因はひとつではないことが解明されている。そのなかでも「リコード法」による治療効果は目を見張るものがある。日本初のリコード法認定医、ブレインケアクリニック名誉院長の今野裕之医師に話を聞いた。

「アデュカヌマブに期待はしています。しかし、アルツハイマー認知症の根本的治療薬ではないと考えています。実は従来、アルツハイマー病はアミロイドベータという物質が脳に蓄積することで起こるとする『アミロイド仮説』が信じられており、それをもとに薬の開発が行われてきました。しかし、この仮説に基づいた治療薬が期待された結果を出せなかったことから、アミロイド仮説の信頼性が揺らいでいるのです」

 実は、若い人の脳内でもアミロイドベータがつくられることがあるが、加齢などの影響によりアミロイドベータが適切に処理・排出されずに凝集し蓄積するとアミロイド斑ができ、認知機能に影響する。しかし、アミロイドベータはアルツハイマー病の本当の原因ではないかもしれないのだ。

「これまで報告されている研究結果のなかには、死後の解剖で脳に多くのアミロイド斑がみられたが、死ぬまで認知機能に問題がなかった人もいます。アミロイドベータは健康な人の脳内にも存在しますが、単体ではあまり害はなく、むしろ抗菌作用や抗酸化作用、神経保護作用など有益な効果があることが報告されています。つまり、アミロイドベータは脳に害を及ぼす問題に対する防御反応として増えているとも考えられるのです。しかし、なんらかの原因でアミロイドベータが凝集しアミロイド斑となってしまうと、アルツハイマー病の発症につながります」

 アルツハイマー病の発症に影響するものはアミロイド斑だけでなく、遺伝的要素や特定の薬物、ライフスタイル、環境要因、そしてタウ等のタンパク質など、さまざまな要素が原因となっている。複雑な原因から発症するアルツハイマー病に対し、アデュカヌマブはアミロイド斑を唯一標的にしており、ほかの要素にはまったく影響しない。このアミロイド斑を減らすことと認知機能の低下を遅らせることに関しては、明確な関連性が証明されていない。

追加データから有効性を導き出した?

 また、アデュカヌマブの開発に至るまでの経緯に疑問を感じるとの声も多く上がっている。

「アミロイドベータに対するワクチン療法が当初開発されましたが、ワクチン投与により脳炎の副作用が出現したため、それを回避するためにつくられた薬がアミロイドベータに対するヒトモノクローナル抗体であるアデュカヌマブです」

 大きな期待が寄せられたアデュカヌマブだったが、2019年の治験では思わしい結果が出ず、一度は中止となったが、その後、承認へと一転した。

「中止となった際に加えられていなかったデータを追加し、解析し直したところ、症状の悪化を抑制したという結果が得られたのですが、それまでの経緯を踏まえると、欧米でも専門家の意見は賛否両論で、承認すべきではなかったという意見もあるようです」

 また、今回のFDAのアデュカヌマブ迅速承認には、エビデンスの質を疑う声が多いだけでなく、その副作用にも懸念がある。アデュカヌマブは治験参加者の約40%に脳浮腫の副作用がみられ、使用に際しては定期的な検査を必要とする。

 FDAは承認の条件としてアミロイド斑の減少が患者の病状改善につながっていることを証明するための臨床試験を製薬会社に要求しており、このことが証明されなければ承認が取り消される可能性がある。

効果は限定的な可能性

 アデュカヌマブ承認のニュースを受け、6月8日の東京株式市場では、バイオジェン社と共同開発するエーザイの株価が急騰して値がつかない状況が続き、この日エーザイ株は米国預託証券(ADR)で56%上昇、東京株式市場8日午前で19%高となった。

 これほどの期待を寄せられたのは、アデュカヌマブがアルツハイマー認知症の根本治療薬であるという“過大イメージ”が先行したことが大きな要因だろう。しかし、その作用は根本的なものではないかもしれない。アデュカヌマブはアミロイド仮説に基づいてつくられているが、前述したようにアルツハイマー病の真の原因はアミロイドベータではない可能性がある。また、仮にアミロイド仮説が成り立つとしても、脳の萎縮が進行し、かなりの脳細胞が死滅した患者では、アミロイドベータを取り除いても萎縮した脳が元に戻ることは期待が薄い。

高額な医療費

 費用は軽度の認知障害を持つ平均体重の患者に対し、年間卸価格が5万6000ドルになるといわれている。日本で承認された場合、約613万円になる。また、治療に確定診断が必要となれば、「アミロイドペット検査」によりアミロイドベータ蓄積の有無や程度を調べることができるが、現在は自由診療のため検査費用は数十万円に上るため、治療費はさらに高額になるだろう。

 根本治療ではないばかりか、副作用が起きる可能性もある高額なアデュカヌマブに対し、保険適用する意義があるのかという疑問を感じるのが正直なところだ。日本での承認には、医療費の問題の解決が必須だ。

 承認されれば日本の医療に大きな影響を与えることになるアデュカヌマブの開発に対し、エーザイの思いを聞きたいと取材を申し込んだが、「辞退する」との返答だった。今後の臨床試験と評価が、公正に行われることを願う。
(文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)

吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト

吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト

1969年12月25日福島県生まれ。1992年東北薬科大学卒業。薬物乱用防止の啓蒙活動、心の問題などにも取り組み、コラム執筆のほか、講演、セミナーなども行っている。

吉澤恵理公式ブログ

Instagram:@medical_journalist_erie

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