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松崎のり子「誰が貯めに金は成る」

ワクチン接種に“ポイント付与”は有効か?効果絶大だったマイナポイント事業に見る人間心理

文=松崎のり子/消費経済ジャーナリスト
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「gettyimages」より

 ワクチン頼みの一本勝負となった政府の新型コロナ対策。8月19日現在の数字では、65歳以上の高齢者は85.4%が2度の接種を完了しており、今後は現役世代の接種を急ぐ。とはいえ、早く接種したい人ばかりではなく、政府や自治体は接種を後押しするための施策をあれこれ練っているようだ。

 それには、接種することで“トクする”というインセンティブ案も含まれる。筆者はこれまで損得次第で人の消費行動はどう動くかをウォッチしてきたが、ワクチン接種行動にもそれが有効なのだろうか。果たして、どうすれば人は積極的に動くのか。改めて考察してみたい。

※この記事はワクチン接種の是非や医療情報について取り上げる内容ではありません。

「ポイントあげます」方式は効いたのか

 報道によれば、東京都は若者層への接種促進のためにアプリを開発、接種した人が登録すると、割引クーポンなどが取得できるようにするという。こうした「ご褒美」は、どのくらいの効果があるのだろうか。ポイントをあげます、という名目で最近行われた例から、まず実績を見てみよう。

 それは、キャッシュレス推進のために政府が行った「キャッシュレス・ポイント還元事業」と「マイナポイント事業」の2つだ。海外に比べてキャッシュレス決済の比率が低いことを問題視し、2025年までに決済比率40%を目指すとぶち上げたのはご存じの通り。そのためのインセンティブとして、19年10月から20年6月まで、消費者が対象店舗でキャッシュレス決済をすると最大5%のポイント還元が受けられるとしたのが、キャッシュレス・ポイント還元事業だ。

 もともとは消費税率10%引き上げの緩和策でもあったが、5%還元にさらに上乗せするスマホ決済事業者のキャンペーンも加わり、そこそこお祭り感があった。果たして、キャッシュレス化にどの程度貢献したのだろうか。

 キャッシュレス推進協議会の資料によると、この時期に還元事業の対象となった決済金額は約12.3兆円にものぼったという。19年10月~20年6月の家計最終消費支出は約209.3兆円で、おおよそ6%がキャッシュレスで決済されたことになる。これがすごい割合かどうかはピンとこないが、この還元事業によって1000円未満のキャッシュレス決済回数が増えたといい、日常の気軽な買い物に使うハードルは下がったとされる。

 次に、マイナポイント事業。こちらは総務省による仕切りで、取得率がなかなか伸びないマイナンバーカード普及のための促進策だ。マイナンバーカードを取得し、それにキャッシュレス決済の手段を一つ選んで連携すると、チャージ金額もしくは決済金額に対し25%分のポイント(上限5000円相当)が付与される。

 カードの申請が必要な分、先のポイント還元事業よりちょっと手間がかかる。マイナンバーカードという存在には個人情報管理の不安から反発も強く、正直「たった5000円でそんなに人は動くものだろうか」と思っていた。

 マイナポイント自体は20年7月より予約が開始され、同年9月からポイント付与が始まった。21年4月末までにマイナンバーカードの申請を行い、同年12月末までのチャージもしくは店舗等での支払いで、最大5000円分のポイントが受け取れる。

 実際に始まってみるとCMやメディアでの露出量がものすごく、マイナンバーカードの申し込みが殺到し、さばききれなかった自治体も。ちょうど政府が10万円の特別定額給付金の支給にもカードが利用できると急に言い出したせいもあり、大混乱に陥ったことは記憶に新しい。

 では、実際にマイナンバーカードの普及はどうだったのか。20年3月時点では、全人口に対し15.5%という数字だ。それが、カードを取得した人の予約が始まる同年7月には17.5%に伸びている。19年4月の普及率は13%で、約1年たっても2.5ポイントしか伸びていなかったのに、4カ月でいきなり2ポイントアップしている。最新の数字である21年7月現在では、なんと人口の34.2%まで達した。1年前の数字からほぼ倍増しているのだから。すごい伸びだと思う。

 ポイント付与だけが要因ではないかもしれないが、20年7月から2100万人以上がマイナンバーカードを申請したと考えると、「すごいぞ5000円……」というのが実感だ。

「ご褒美」は確かに人の行動を変える

 この2つの事業が行われた後のキャッシュレス比率も伸びた。18%程度だった15年に比べて、19年には27%にまで上がっているし、コロナの影響もあるにしろ、20年の段階ではほぼ3割にまで達している。

 キャッシュレス・ポイント還元事業やマイナポイント事業で決済アプリを使い始めた人も増えたはずで、それが潮目になったと言ってもいい。5%還元でも、5000円でも、確かにご褒美は人の行動を変えるのだ。Go To キャンペーンでも、あれだけ人は浮足立ったのだから、「トクする」というインセンティブがワクチン接種促進にまったく効果がないとは言えない。

 2つのインセンティブ施策のうち、個人的にはマイナポイントの結果が意外だった。一回外食すると消えてしまうような金額でも、ここまで人を動かすのかと。

 しかし、金額ではないのかもしれない。それより「他の人がトクしているのを見過ごせない」心理が大きかったのではないか。人は損することが嫌いな生き物だ。それよりもっと嫌いなのは、自分だけが損することだ。確かにマイナンバーカードを取得するのは面倒だ。その面倒なことをわざわざやる人がいると聞くと、「やらなきゃソンなのか?」と感じてしまったのかもしれない。

 もし、政府がワクチン接種に踏み出せない人の背中を押したいなら、「自分だけが損をしてしまう」気持ちを煽るのも一案だろう。

「北風と太陽」のどちらがいいのか

 他者に行動を促す手段として、北風方式と太陽方式があるとする。ちなみに、「ワクチン接種者へのポイント付与や割引クーポン配布」は太陽方式だろう。逆に、北風方式といえるのは行動制限を課すパターンだ。接種済みでないとレジャー施設に入場ができない、イベントに参加させないなど、選別の対象にするやり方がそれにあたる。しかし、後者を徹底することはなかなか難しい。特に企業主催の場合は、相当のクレームを覚悟しなくてはいけないだろう。

 それより、もっと単純な方法がある。たとえば「来年からワクチン接種は有料になります」とアナウンスする。これまで無料だったものが、ある期限を超えると自己負担になると聞くと、必ず駆け込み行動が起きるだろう。「他人は無料で打てたのに、自分だけが有料になるなんて!」と焦る。さっきの「自分だけが損をしてしまう」心理を突くわけだ。

 また、「ご褒美」方式にしても、期間を区切るほうがいい。永久にポイント付与しますよ、と言われると、なかなか人は動かないからだ。それより、「もらえるのは3カ月だけ」と期限を切られた方が焦る。しかも、いったん促進キャンペーンが終了したのち、間隔を置いてまた行うと、「今度こそ乗り遅れたくない」と新たな人が参加するはずだ。

 我々は常に損得を考えて行動する生き物だ。その上、他人の行動が妙に気になる。自分だけがオトク情報を知らなかったという失態を犯したくないからだ。こういう心理を理解することで、人を促すことはある程度できるだろう。

 むろん、ワクチン接種は自らが決めることであり、信頼できる情報に基づいて判断すべきだが、「なんとなく周囲に流されて」という人は、自分がどんな損得に誘導されがちかも改めて考えてみるといいだろう。

(文=松崎のり子/消費経済ジャーナリスト)

松崎のり子/消費経済ジャーナリスト

松崎のり子/消費経済ジャーナリスト

消費経済ジャーナリスト。生活情報誌等の雑誌編集者として20年以上、マネー記事を担当。「貯め上手な人」「貯められない人」の家計とライフスタイルを取材・分析した経験から、貯蓄成功のポイントは貯め方よりお金の使い方にあるとの視点で、貯蓄・節約アドバイスを行う。また、節約愛好家「激★やす子」のペンネームでも活躍中。著書に『お金の常識が変わる 貯まる技術』(総合法令出版)。
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