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東京都、地震の危険度・安全度の地域別マップ…1週間は震度5程度の余震に注意

文=池田利道/東京23区研究所所長
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「gettyimages」より

 7日午後10時41分頃、千葉県北西部を震源とする推定マグニチュード(M)5.9の地震が発生。東京都足立区、埼玉県川口市と宮代町で震度5強を観測した。東京23区内で震度5強を記録したのは、東日本大震災が発生した2011年3月以来10年半ぶりとなる。

 深夜の地震で鉄道の運転見合わせにより多数の帰宅困難者が発生。首都高速道や東名高速道路では通行止めが行われ、水道管の破裂や停電が発生する地域も出るなど、広い範囲でライフラインに影響が出ている。

 気象庁は「1週間程度、最大震度5強程度の地震に注意が必要」と警戒を呼びかけており、引き続き注意が必要な状況が続く。

 当サイトは2019年9月1日付記事『東京都、首都直下地震の地域別危険度マップ…中野区、杉並区は危険度「高」』で、東京都が地震により想定される影響を評価した「地域危険度一覧表」を解説していたが、改めて再掲載する。

※以下、日付・肩書・数字等は掲載時のまま

――以下、再掲載――

 2014年12月19日、東京に衝撃的なニュースが走った。政府の地震調査委員会が、東京(都庁周辺)で今後30年以内に震度6弱以上の地震が起きる確率を従来の26%から46%へと大幅に引き上げたのだ(最新の予測では、東京48%、千葉85%、横浜82%、埼玉55%)。

 その3日後の12月22日には、迷走状態にあった新国立競技場の設計案がようやく決まる。週末を挟んでいたこともあり、テレビではこの2つのニュースを同時に報道する例も少なくなかった。

 トップニュースは新国立競技場のほう。キャスターもコメンテーターも、これで世界の国々に最高のおもてなしができると満面の笑みを浮かべた。続く地震関連のニュースになると、「東京ではいつ大地震が起きてもおかしくないと考えておくべきだ」と表情が一転。思わず、筆者はテレビに向かって「いつ起きてもおかしくない地震が五輪のときに起こったらどうするんだ」とつぶやいてしまった。

 実は、筆者のつぶやきはタブーなのだ。地震がいつ起きるかわからないというのは、あくまでもタテマエの話。ホンネでは「でも、五輪のときには起きないだろう」と大多数の人が考えている。

 震災の話になると、私たちは常にタテマエとホンネの間を右往左往せざるを得ない。大地震にいつ襲われてもおかしくないと聞いて、泰然自若を貫ける人は少ない。しかし、だからといって、仕事や家族のことを考えると、おいそれと東京から脱出できるわけではない。結局のところ、喉に小骨が刺さったような気分で、今日、明日を過ごしていくしかない。「小骨」ではなく「大骨」なのだが、そう考えた途端に先に進めなくなってしまう。

 このジレンマの果てに、「東京の中で安全なところに住みたい」という考えが頭をもたげてくる。目先のことしか見ようとしない安易な解決策ではあるのだが、人情としては理解できなくもない。だが、そのとき、沖積低地で地盤が軟弱な下町は危険だが、武蔵野台地の上に立つ山の手なら安心だと考えるのは、あまりにも単純すぎる。

「地震安全度」トップは板橋区、2位は練馬区

 東京都は、地震による建物の倒壊、火災、救急や消防をはじめとする災害時活動の困難さ、という3つの視点から、町丁目別に5段階評価を行った『地域危険度一覧表』を公表している。

 図表1は、これら3つの指標を合わせた総合危険度ランクが4以上とされた地区の面積の区の全面積に対する割合を示したものだ。23区平均は11.3%。つまり、東京23区の中でも上位1割にあたる高危険度地区がどれぐらいあるかを示したものと考えていただければいい。東京都、地震の危険度・安全度の地域別マップ…1週間は震度5程度の余震に注意の画像2

 図表1を見ればわかるように、都心3区には高危険地区が存在しないことになっている。しかし、この結果だけを見て「都心は安全だ」と考えるのは早計にすぎる。木造の建物が少ない都心は、なるほど火事には強いものの、揺れの被害、人的被害、ライフライン被害などの危険性は必ずしも低いとはいえない。加えて、地震後のサバイバル生活を考えると、不安満載のタワーマンション居住、エレベータ閉じ込めの恐怖、帰宅困難者の多発といった都心型の課題もある。

 例外的な都心3区を除くと、高危険地区が一番少ないのは板橋区、次いで練馬区。武蔵野台地の上といっても、中野区杉並区は危険な地区が多い。その最大の理由は細街路が多く、災害時活動の困難性が高いこと。同様に細い道が多い世田谷区も、図表1に記した都の想定以上の危険性が潜在している可能性を否定できない。

「板橋区に住めば安全」とは限らない理由

 図表1は震災の危険性に対する大きな評価を示したものだが、具体的な地震の発生を想定したときの被害シミュレーションはどうなっているのだろうか。

 東京湾北部を震源とするマグニチュード7.3の地震が、風速8m/秒というやや強い風が吹く冬の夕方6時に発生したとすると、23区で想定される死者の数は9340人。阪神淡路大震災による死者が約5500人(震災関連死を除く直接死者数)だったことと比べると、被害の大きさがあらためて理解できるだろう。

 図表2は、こうした未曾有の被害のうち、読者の関心が高いであろう9つの項目について、被害が少ないとされている区をピックアップしたものだ。東京都、地震の危険度・安全度の地域別マップ…1週間は震度5程度の余震に注意の画像3

 総じて安全度が高いと評価できるのは、やはり板橋区だ。9項目中4項目でトップ。残る5項目のうち4項目で2位。建物焼失率は都心3区に次ぐ4位だが、非木造の建物がおよそ7割を占める都心3区に対し、板橋区は逆に木造が約7割。そう考えると、実質トップレベルといっていいだろう。

 板橋区に次いで練馬区の安全度が高いことも、危険地区調査の結果と同じ。焼失率が6位にとどまるのは、同区が23区で一番木造建物の割合が多い(78%)ためだ。同じく6位の通信不通率も、23区平均と比べればはるかに低い。

 図表2を見ると、北区や豊島区も被害が小さいことがわかる。どうやら、東京は北に行くほど地震安全度の評価が高くなる傾向があるようだ。荒川・新河岸川沿いの板橋区北西部や北区の北部、東部は別にして、北に行くほど地震安全度が高くなるということは、武蔵野台地の形成にまでさかのぼる地質、地形の構造に由来しているのだろうか。残念ながら筆者は専門外で、正確なところはよくわからない。

 筆者がわかるのは、いくら他区と比べた相対的な安全度が高いからといって、「板橋区に住めば安全」とはならないということだ。板橋区でも40棟のうち1棟は倒壊あるいは焼失のおそれがあり、およそ7人に1人が避難所生活を強いられる。想定される死者の数は80人以上、重傷者は200人以上。「板橋区に住んでいるから大丈夫」と油断していたら、その中の1人にならないとも限らない。

日頃の“ご近所付き合い”が究極の震災対策に

 東日本大震災の直後、江戸川区、葛飾区、足立区の東部3区の人口が減った。この傾向がもっとも顕著だったのが、区の7割が海抜ゼロメートル地帯である江戸川区。津波の恐怖が生んだ、一種の「風評被害」であったことは想像に難くない。

 都のシミュレーションによると、東京湾北部を震源とする地震の際に想定される津波は1~1.8m程度、死者はゼロ。命を守る上で脅威となるのは、倒壊による圧死と火災による焼死にほぼ限られてくる。

 圧死は、最初の大きな揺れへの対応が勝負を分ける。建物の耐震診断、必要な補強、家具の転倒防止。火災も、火の元への注意や初期消火の徹底で被害を最小限に抑えることができる。これらは、いわば自己責任の範囲内だろう。だが、命も財産も無事だったとしても、被災後にはライフラインが寸断された中での厳しいサバイバル生活が待ち受けている。これを耐え抜いていくのは、自助努力では限界がある。そのとき、大きな力を発揮するのがご近所同士の助け合い、つまり「共助」だ。

 16年4月に発生した熊本地震では、直接死者数50人に対し、震災関連死が200人を超えた。その主要因のひとつに、避難所生活の煩わしさを敬遠し、車中泊を選ぶ人が多かったことが挙げられている。まちの共助パワーが発揮されれば、防げた悲劇があったのかもしれない。

 助けてほしいときだけ助けてくれ、では話にならない。日頃から、できる範囲で助けられたり助けたりし合う関係を築いていておくことこそ、究極の震災対策となる。それは、どこのまちに住もうと変わりない。

 こと震災に関する限り、おそらく日本中が「危険なまち」。「安全なまち」とは、小さな努力の積み重ねによって自らがつくり出していくものなのだ。そう考えると、図表1や図表2に示したデータが、また違った意味を持ってくると感じられるのではないだろうか。

(文=池田利道/東京23区研究所所長)

池田利道/東京23区研究所所長

池田利道/東京23区研究所所長

東京大学都市工学科大学院修士修了。(財)東京都政調査会で東京の都市計画に携わった後、㈱マイカル総合研究所主席研究員として商業主導型まちづくりの企画・事業化に従事。その後、まちづくりコンサルタント会社の主宰を経て現職。
一般社団法人 東京23区研究所

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