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長谷十三「言わぬが花、をあえて言う。」

岸田首相と東條英機に共通する「負けるリーダー」の条件…真面目、人の話を聞く

文=長谷十三
岸田首相
「首相官邸 HP」より

「二階幹事長に喧嘩を売ったり、新自由主義から転換すると宣言したり、今度の首相には期待できるかも」

 そんな感じで多くの国民が浮かれていた岸田文雄首相就任時から2カ月後、SNSでは「#岸田総理の辞任を求めます」がトレンド入りした。安倍政権でのモリカケ問題のような「ホームラン級の失点」はないものの、2カ月前の期待感をチャラにする「外国人労働者の拡大」「親中派で知られる林芳正衆議院議員の外務大臣起用」「子育て世帯に一律10万円給付でクーポンにしたことで967億円のムダ遣い」などの「エラー」が積み重なっているのだ。

 この調子が来年も続けば、7月の参院選は苦戦を強いられるかもしれない。事実、宏池会に源流をもつ首相は政権交代を許してきたという事実がある、55年体制最後の自民党首相となった宮澤喜一氏と、鳩山・民主党に惨敗した麻生太郎氏だ。最近の不人気ぶりからも、岸田首相がこれらの首相と同じ運命をたどってしまう可能性もあるのでは、と永田町では囁かれているのだ。

マジメな宰相

 そんな「敗将」の臭いが漂いだしている岸田首相を見ていると、やはり日本の「敗戦」に大きな影響を与えた過去の首相との共通点が目立つ。それは第40代内閣総理大臣、東條英樹だ。

 東條というと、日本を無謀な戦争へ突入させた軍国主義の権化のようなイメージを抱く人も多いだろうが、実は陸軍内では「いい人」で通っていた。とにかくマジメで努力家で、家族思いでスキャンダルなど悪い話は一切ない。天皇陛下から信頼もされていたということで慕う部下も多かった。評論家の福田和也氏も『総理の値打ち』(文藝春秋)で「日本組織で人望を集める典型的人物」と評している。

 そして令和日本でマジメな宰相といえば、思い浮かぶのは我らが岸田首相だ。自民党総裁選に出馬した際も、政治ジャーナリストや政治評論家が「岸田さんの悪口を言っている人を見たことがない」「とにかくマジメ」などとヨイショしていたのは、まだ記憶に新しいだろう。

 そんな2人のマジメ首相には多くの共通点がある。「聞く力」と「メモ」だ。岸田首相が総裁選で「私の特技は人の話をよく聞くこと」と繰り返しアピール、しまいには選挙演説やテレビ出演で「岸田ノート」を見せびらかすというパフォーマンスまで繰り返したのはご存じの通りだ。一方、日米開戦に踏み切った「いい人・東條英機」も「聞く力」には定評があることに加えて、無類のメモ好きとして知られていた。

「部下の報告をよく聞き、上がってくるすべての書類に目を通し」ていたという「東條は部下の報告をいちいちメモにとり、それをあとで整理して事項別と年月別に分け、これを特別性の書類箱に収めていた。また、このメモに基づき、3種類の手帳を使っていたという」(『戦争指導者としての東條英機』防衛研究所より)。

エリートコースから外れた努力の人

 そんな共通点があるだけではなく、2人は「エリートコースから外れた努力の人」というキャラクターも丸かぶりだ。

 広島の資産家の家に生まれ、政治家一族の3代目という典型的な「上級国民」の岸田首相が、自身を「苦労人」だとアピールをする際の鉄板ネタが、「開成高校出身なのに東大に3回落ちた」というものだ。

 岸田家の男たちは、祖父が京大法学部から高等文官試験(現在の国家公務員試験)、父は東大法学部から通産省という典型的なエリートコースを歩んでいる。当然、岸田首相も生まれた時から当たり前のように同じ道を歩むことを求められたが、2浪して早稲田の法学部を出た後、日本長期信用銀行に入行。世間的には十分立派なエリートだが、「岸田三代」のなかではやはり見劣りしてしまう。そういうコンプレックスが、「努力の人」にもつながっている。

 一方、東條英機も「エリートコースから外れた努力の人」だった。

 陸軍のエリートコースは、陸軍大学校を卒業した者たちだが、実はそのなかでも序列がある、優秀な成績である上位数名は、天皇陛下から軍刀などの恩賜品を授与されるのだが、この「恩賜組」「軍刀組」は将来を嘱望され、「次世代の陸軍幹部」と目される。有名なところでは、石原莞爾や永田鉄山だ。

 東條は意外にも、このコースには乗っていない。「恩賜組」「軍刀組」になることができなかっただけではなく、陸大自体も2浪をしてようやく引っかかった。つまり、慕っていた先輩である永田や、後に犬猿の仲として激しい権力闘争を繰り広げる後輩の石原が若くして得た「選ばれた者」という評価を、東條は持っていなかった。この強烈なコンプレックスが、部下の話に耳を傾け、几帳面にメモる、というやや偏執的な「マジメさ」につながっているのだ。

お友だち厚遇

 ただ、そんなキャラクターの共通点以上に、岸田首相と東條の姿が重なるのは「人事」である。東條についての著作が多くある作家の保阪正康氏は、『人を見る目』(新潮社)の中で、東條と側近の関係をこのように看破している。

「昭和10年代の戦時宰相・陸軍大将の東條英機はお追従が大好きだった。自分の目をかけた人間のみ、周辺に集め、あとはどんな識見・卓見を持っていても遠ざける。なぜこんな軍人を重用したのか、と言いたくなるほどだ」

 実はこの言葉は、岸田首相にもそのまま当てはまる。金銭トラブルの疑惑が燻り続けていた甘利明氏を「総裁選で自分を応援してくれた」という理由だけで、国民の反対を押し切って党幹事長に抜擢。さらに自身よりも人気の高い河野太郎を広報本部長に据え露骨に冷遇し、高市早苗氏を政調会長という要職に付けながらも「10万円給付」などの重要な決定には関わらせない。

 一方で、官邸は松野博一官房長官、中谷元内閣総理大臣補佐官、木原誠二、村井英樹、寺田稔という「お友だち」と「宏池会」がズラリと並ぶ。さらに、国民が驚愕したのが、選挙で落選して「無職」の石原伸晃を観光立国担当の内閣参与にするという決断だ。当然、観光政策分野の実績などゼロ。東條と同じで、「お追従」が大好きとしか思えない。

 1940年時点で内閣、陸海軍の上層部では、国力の差が歴然としていたアメリカとの戦争を避けるべきという声が多かった。しかし、東條は開戦に踏み切った。研究者たちは、「日中戦争でここまで死人が出ているのに今さら中国から撤兵できるか」という陸軍内部と国民の声に東條が真摯に耳を傾けた結果だと分析している。

 実は国家を滅ぼすのは、独裁者や自分勝手なリーダーだけではなく、「周囲の話をよく聞くいい人」である。岸田首相も東條と同じ道を歩まないことを祈りたい。

(文=長谷十三)

長谷十三

長谷十三

フリーライター。政治・経済・企業・社会・メディアなど幅広い分野において取材・執筆活動を展開。

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