金融資産の増加、株式や投資信託を「組み入れる人・組み入れない人」の差が歴然
日本銀行が四半期ごとに公表している資金循環統計が、今回はかなり報道されました。家計が保有する金融資産残高が2000兆円に迫ったからです。賃金が増えないなかで家計の金融資産だけは大幅に増加し、コロナ禍が持つ者と持たざる者の差を如実に拡げたことが報道増の背景にあるように思われます。
その資金循環統計によれば、2021年9月末時点(速報値)の家計が保有する金融資産額は1999兆8000億円となりました。2000兆円乗せが期待されたのですが、残念ながら2000兆円には2000億円届かなかったものの過去最高額を5四半期連続で更新。1年前の2020年9月末と比較すると金額にして126兆8000億円、増加率は5.7%になっています。コロナ禍にもかかわらず増加額が100兆円を超えるのは3四半期連続です。
家計の金融資産が初めて1000兆円を超えたのは1990年ですから、約30年間で家計の金融資産は倍増したことになります。賃金がなかなか増えないなか、将来不安から家計は節約に努めせっせと貯蓄を行ってきた結果が2000兆円近くの金融資産額になったわけです。
米国は6.7倍に増加
賃金、金利状況、株価などを考えれば30年間でよく1000兆円も残高を増やしたなと感慨深いものがある一方、米国の個人金融資産は約1京2900兆円(約114兆ドル)で、日本が30年かけて倍にした金融資産額を米国は6.7倍に増やしています。その原動力は、米国の個人金融資産の半分強が株式と投資信託で、株高が金融資産の大幅増に寄与したことを考えれば、日本も資産運用のあり方を改めて再考する必要がありそうです。
その株式と投資信託を合わせた家計の資産残高が初めて300兆円を超えたのは朗報でしょう。とはいえ、株式等の残高は218兆円、投資信託の残高は90兆円となりましたが、それぞれ全資産に占める割合は10.9%と4.5%にすぎません。合算しても金額で308兆円、割合で15.4%ですから、貯蓄から投資へ(資産形成へ)は道半ばにも達していないようです。
一方、家計の金融資産の中心となる現金・預金は1年前の2020年9月と比較すると3.7%増加して1072兆円になりました。全資産の53.6%を占めていますが、過去30年では現預金が全資産に占める割合は概ね48~55%です。上限に近くなっているうえ、超低金利が今後も続くことを考えると、現預金から株式や投資信託への資金移動が起こるかもしれません。
過去何度も「山が動く(現預金から株式や投資信託へ)」といわれてきたので今回も空振りになるかもしれませんが、少なくとも若年層は中・高齢者と比較して投資への抵抗は少ないのが救いといえるでしょう。
家計の金融資産の2000兆円乗せは次回(2021年12月末、公表は2022年3月)の資金循環統計の公表までお預けとなりました。ただ、日米の金融資産の増え方を比較すれば、中・長期で資産を形成していくには株式や投資信託を組み入れる者と組み入れない者の差が大きくなることが裏付けられたような気がしてなりません。まとまった資金がなくても長期・積立・分散という方法で、つみたてNISAやiDeCo(個人型確定拠出年金)などを活用して1日でも早く投資に踏み出すことは大多数の人ができるはす。2022年は、数十年後に笑うために資産形成への第1歩を踏み出すべきでしょう。
(文=深野康彦/ファイナンシャルリサーチ代表、ファイナンシャルプランナー)