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なぜJR北海道は「雪に弱く」なった?毎年、除雪の遅れで運休を繰り返す理由とは

文=小林英介
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JR北海道のHPより

 2022年の年末から23年の年始にかけ、北海道は大雪に見舞われた。札幌管区気象台によると、空知地方・岩見沢(いわみざわ)市では、23年1月5日現在の積雪量が118cmに達したといい、JR北海道は1月4日に240本前後の列車を運休、または部分運休した。前回記事で触れたとおり、JR北では21年末から22年にかけて大規模運休を実施する事態となった。「二度と同じようなことを起こさない」との決意のもと22年に再発防止策を発表したが、今回のような事態が発生したのだ。そのため、防止策の意味はあったのだろうかと考えてしまうが、「あの状況では運転不可能だ」との意見もある。

 そこで本稿では、JR北が22年に発表した防止策のなかの「除雪」と「情報発信」について比較。JR東日本とJR西日本に取材し、除雪対策について聞いた。さらに札幌圏の降雪についても専門家に話を聞いた。私たちは雪とどのように向き合えばよいのだろうか。

ヒーターや機器を増強…JR北の除雪対策とは

 具体的な話に入る前に、JR北が発表した除雪対策について振り返っておこう。JR北は22年11月16日、21年末~22年2月にかけて数回にわたって発生した大規模運休を踏まえ、対応について検証。同年6月に取りまとめた最終報告に沿ったかたちで、22年末~23年にかけての「冬期の取組」を発表した。それによると、除排雪迅速化のためラッセル車13台と除雪機械127台を新たに配置。車両の方向を変える「ポイント」不転換対策としては、レールを温める「レールヒーター」を増強するなどした。さらに情報発信強化として、運転再開の時期を「~時頃」などと具体的に変更。分かりやすい表示に改めるとしていた。

 ちなみに、この「分かりやすい表示」については、23年1月上旬からホームページ上の運行案内表示を見直した。ユーザーからは「分かりやすい」との反応が多かったように感じた。またJR北は23年1月~2月の土曜日夜から日曜日にかけ、計画的に5本の列車を運休(一部部分運休)し、その間に除雪を進めるとしていたが、その取り組みは1月7日から始める予定だった。その前に大雪が降ってしまったのである。

札幌市西部にある山「手稲山」が影響、降雪範囲を左右

 ちなみに本稿記者も実家に帰省し、札幌に帰ってくる際、今回大雪が降った岩見沢市を通過した。周りは猛吹雪で真っ白であり何も見えない状況だった。一目で「このまま運転を続けるのは危険」と感じた。いわゆる視界が吹雪などで遮られる「ホワイトアウト」が発生していた。しかし岩見沢や江別を過ぎて札幌に近づくとどうだろう。そこには真っ青な空が広がっており、快晴だった。このように、札幌とその北側では天候がまったく違うのだが、そのような違いはなぜ生まれるのだろうか。

 これは札幌市民などの間でよく言われていることだが、岩見沢方面が大雪になるのであれば札幌は雪が降らない。21年~22年はその逆であり、札幌の大雪がクローズアップされた過去がある。札幌圏での降雪の特徴について、HBC(北海道放送)ウェザーセンターの近藤肇気象予報士はこう話す。

「21年から22年にかけての冬は西高東低の冬型の気圧配置で、風向きは北寄りでした。上空の強い寒気の影響で、日本海で発生した雪雲が石狩湾からダイレクトに札幌方面に流れ込みました。しかも、その際、石狩湾で複数の帯状の雪雲がぶつかりあって収束。太い活発な雪雲の帯になったことで短時間に積雪がどんどん増える雪の降り方になったのです」

また近藤氏は、この時のひと冬通しての降雪量は平年と比べて少しだけ少なかったとしながらも、短期間で積雪が急増したことから札幌市民に「大雪が降った」との印象を強く与えたと指摘した。その一方、今年は岩見沢方面で大雪となったが、近藤氏は「風向きが影響した」と解説する。

「23年は年明けから4日間にわたって、岩見沢方面で局地的な大雪になった時の気圧配置も冬型でした。上空には同じように強い寒気が居座っていましたが、札幌圏で大雪になった時との違いは『風向き』です。今回は西寄りの風でした。風向きが西寄りの時は、同じ冬型でも日本海で発生した雪雲は風に乗って西から陸地に流れ込んできます。西風の時は、札幌方面に向かっていた雪雲は風上の手稲山で行く手を阻まれるので、札幌よりも北側のエリアに雪雲が集中して流れ込むことになります。これが、札幌よりも北側の岩見沢方面で大雪になりやすい気象条件です」

近藤氏が言うには、札幌の大雪には「手稲山」という山が関係しているというのだ。手稲山は札幌市手稲区と西区にまたがって存在する山で、スキーリゾート「テイネ山」として有名だ。テイネ山のホームページによれば、1972年に札幌五輪の会場としてアルペンスキー競技等が開催され、世界的に知られるようになったというが、この山が関係し、札幌と岩見沢方面の降雪状況がくっきりと別れるメカニズムになっているというわけだ。

「特に人員不足はないが」…JR東と西に話を聞いた

 ところで、なぜJR北は毎年「除雪が追い付かない」といった理由で列車を運休する事態を引き起こしているのだろうか。もちろん、除雪が追い付かないほどの降雪が毎年続いているとの理由があるのだろうが、利用者はたまらない。そこで、他社の除雪作業を確認するため、JR東日本とJR西日本に、雪が多く降る地域ではどのような除雪や対策をしているのかについて聞いた。

 JR東日本では雪害に対する取組みとして、「各地区の降雪状況に応じて、電気融雪器等の消融雪設備を整備している」と回答。またそのうえで、「線路内の除雪については、除雪機械で作業を行っているほか、踏切については人力での作業も実施している」と答えた。

 一方、JR西日本では在来線・新幹線ともに、「降雪予想に基づいて雪を左右によけるラッセル車の運転や雪を投雪するロータリ車により、線路上の雪を排雪している。在来線では、除雪間合い確保のため、除雪作業を行う影響により列車に運転休止が発生する場合があり、新幹線では、列車に搭載されているスノープラウで雪を左右によけて運転している。なお、よけた雪は貯雪型構造の高架で溜め込むことができる」と回答した。加えて「新幹線では、列車の下部に付着した雪を高圧洗浄機にて落とす雪落とし作業を行っている。なお、車両に付着した雪は、気温が高くなることにより溶け出し、高速で落ちることにより、車両や設備を傷つける場合がある」とした。除雪の人員配置については、「新幹線だが、上りホームのみの糸魚川駅で雪落とし作業を行っている。雪落とし作業の作業員は24名で1日2交代で作業を行っている」(西日本金沢支社の担当者)とのこと。JR東日本の担当者は「管轄するエリアの範囲や、雪質、積雪量等に左右するため、一概にはお答えいたしかねる。状況に応じて適切な人員を配置し、除雪作業を行っている」と回答した。

 前述の通り、JR北では「除雪が追いつかない」として作業員を増やすなどしていたが、JR東や西の担当者の回答を見る限り、人員不足は見られないと感じる。ただ、北海道と本州の「一部地域」とを比較することは酷だろう。北海道は広大な大地を有しており、その分、除雪を行う範囲も大きくなる。反対に、関東では都心でときどき降雪がある程度。毎年冬に降雪がある甲信越地方を除けば、定期的に除雪をする必要はないのだ。

あのキャッチコピーはどこへ…JR北は復活できるか?私たちも考え方を改めるべき時期

「冬こそJR」

 これは過去、JR北が流していたとあるコマーシャルのキャッチコピーだ。「JR北海道は冬に強い」としてPRをしていたものの、今ではまったく逆の「冬に弱い」状態になってしまったといってもいいだろう。いち利用者としてJR北を応援していた本稿記者としては、誠に残念である。JR北はどうしてこれだけ貧弱になってしまったのだろうか。もう一度「冬こそJR」を実現できるのはいつになるのだろう。ぜひJR北には、他社の取組も参考にし、安定した運行ができるように努力を続けてほしい。そして、私たちも「時間通りに列車が来る」という当たり前の感覚を、少しだけ改める必要があろう。

「もしかしたら時間通りに列車が来ないかもしれない」
「少し遅れても列車を待とう」

 いままでの「心の持ちよう」とはまったく異なるものの、こういった考えを個々人が持つことも必要だ。運転する側も、利用する側も、そして経営側も今までの常識を取っ払い、考えを改めるべき時期にきているのかもしれない。

(文=小林英介)

小林英介/ライター

小林英介/ライター

ライター。1996年北海道滝川市生まれ。業界紙記者として働きつつ、様々な媒体でも活動している。

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