一度潰れかけた日産が、再び「行き着くところまで行く」気配…不正「日常化」企業の共通点
大局観に基づく採点基準と理念が行動を変える
人の言動は入れられている器、すなわち組織に大きく左右される。人は基本的に置かれている立場でしか物事を考えられないからだ。それ以上の大局的な視点は一組織人にはなかなか持てない。
先の例でも、品質管理部門の人は品質のことだけに関心が向き、予算管理部門の人は予算達成のことだけに関心が向く。もし、品質管理部門の人が予算管理部門に異動したら、「品質のことはいいからコストを下げろ」と言いだしかねない。実際、立場が変わったとたんに言うことがまったく変わるという、人間不信になりそうな豹変ぶりはよく見られる。そのような一組織人に「大局的に考えろ」と言っても、できないものはできない。
では、どうしたらいいか。
ひとつは、大局的視点から設定された評価基準(KPI: Key Performance Indicator)で人の評価をすることだ。
人は採点基準通りに行動する。「売上」がKPIになっていれば、不正をしてでも売上を上げようとし、「納期」がKPIになっていれば、品質を犠牲にしてでも納期に間に合わせようとするのだ。本気で不正が悪だと思っているならば、「不正をしない」というKPIを最も優先されるKPIにすればいい。そのKPIで人事評価が決まり、ボーナスも決まるとなれば、あっという間に人はその通りに行動する。
行動を変える上でもうひとつ重要なのが企業理念だ。これは、「その会社にとって最も重要なことは何か」がわからなくなったときに常に拠りどころとすべき礎だ。
米アマゾンの企業理念は、「地球上で最もお客様を大切にする企業であること」だ。これがすべてに優先されることが徹底されており、それに基づく行動規範も定められている。人事評価でも、「仕事ができるが、理念を共有できていない人」よりも「仕事はできないが、理念を共有できている人」のほうが評価される。このような理念の共有が徹底されていたら、場合によっては命にかかわる自動車のテストデータの改ざんなど絶対にしないだろう。仮にそれをした者がいたら、即刻クビになるはずだ。
日産は、破綻寸前のところでルノーからの出資で首の皮一枚つながった会社だ。一度、行くとこまで行きかけた会社なのだ。このままでは、本当に行くとこまで行かないと変われないということになりかねない。
(文=金子智朗/公認会計士、ブライトワイズコンサルティング代表)