サービス力向上への地道な取り組み
カレーソースを集中加工できる製造工場を早くから立ち上げてきたことも大きいといえる。ココイチの1号店が誕生したのは1978年だが、翌79年には愛知県にチェーン本部を設立するとともに、製造工場をも開設している。97年には佐賀県、99年に栃木県にそれぞれ工場を完成させた。これらの工場でハウス食品から仕入れたルーなどを使ってカレーソースを製造し、全国の店舗に供給している。
カレーソースは、工場で集中加工するのに向いている。店舗は提供されたソースを温めるだけでカレーを提供できるようになる。そして、工場で集中加工すれば、規模の経済を発揮しやすい。とはいえ、集中加工できるほどの規模の工場を建設するとなると、莫大な費用がかかるほか、供給先となる店舗を多く抱えている必要があるため参入障壁は高く、誰もができることではない。参入障壁は高いが、壱番屋は早くから多店舗展開と工場の建設を同時進行的、効率的に行ってきた。
一方、ほかのカレー店では、カレーソースを店舗で製造したり、社外の工場に委託するところも少なくない。これだとコストが膨らみがちになってしまうが、壱番屋は自社の工場で集中加工することで規模の経済を発揮できるほか、中間マージンの支払いを省くこともできるので、コストを抑えることができている。
店舗のサービス力が高いのもココイチの特徴だ。創業者の宗次夫妻は現場(店舗)を重視したことで知られている。1日平均1000通ほど寄せられる「お客様の声」を3時間ほどかけて読んで改善指示を出したり、1日3~4軒の店舗を巡回して営業の様子を確認したりしてきたという。店舗の朝礼を録音して聴くといったこともしていたほどだ。これらを行うことで店舗の問題点を洗い出し、改善につなげていった。
09年から始めた「ストアレベルマーケティング」も、店舗のサービス力向上につながっている。店舗個別の商品や販促を店舗従業員が考えて実施するというもので、地域の客層に合った商品を開発して「店舗限定メニュー」として売り出すなどしている。たとえば、かつて店舗限定で販売した焼きカレーパンを使ったハンバーガー「ココ矢バーガー」は、学生時代にハンバーガー店でアルバイトした経験がある店舗オーナーが思いつきで開発したもので、インターネットや雑誌などで紹介され、行列ができるほどのヒット商品になったという。ストアレベルマーケティングは従業員のモチベーションアップにもつながり、サービス力の向上に一役買っているのだ。
こういったビジネスモデルや取り組みが積み重なって、今日のココイチが出来上がっている。簡単には真似できないものがあるのではないだろうか。ココイチの成長はまだまだ止まりそうにない。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)
●佐藤昌司 店舗経営コンサルタント。立教大学社会学部卒。12年間大手アパレル会社に従事。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。企業研修講師。セミナー講師。店舗型ビジネスの専門家。集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供。