インターネット専業の生命保険会社、ライフネット生命保険創業者で現会長の出口治明さんと、久しぶりにお話しさせていただいた。出口さんとは、3年前に私が主宰する経営者ブートキャンプに特別講師としてお招きして以来、親しくさせていただいている。今まで多くの高名な経営者の方々とお会いしてきたが、出口さんは出色、異色の経営者だ。
日本生命保険に長年勤めた後、58才で同社を退職して60才でライフネットを創業。独立系としては戦後初となる生保会社を立ち上げたのである。発足に当たっては、6社から計80億円もの出資金を集めた。もう日本生命のような大企業をバックにしていなかった状況で、それだけの巨額を集めたベンチャーというのは聞いたことがない。企業家としてだけでなく、人間としての出口さんの魅力に負うところが大きかったに違いない。
実業家という前に、大教養人としての出口さんに圧倒される。私が今まで実際にお会いした経営者の中で、出口さんの読書量は間違いなく3本の指に入る。もしかすると一番かもしれない。そして出口さんの読書とは、ビジネス書や経営書のレベルをはるかに超えている。西洋、東洋、中近東に関する歴史書をとてつもなく読み込んでいて、造詣が深い。小説や宗教、心理学などの社会学系など「あらゆるジャンルを乱読」してきたそうである。
「とりあえず、ということでお薦めするなら岩波文庫です」と以前、出口さんは経営者ブートキャンプで話してくれた。
「古典といわれるものを読めばいいのです。長い時間に洗われて残って古典といわれるようになった書物は、おのずとそれだけの価値があるのです」
「現在起きることは、必ず過去に起こったことの焼き直しです」
そしてお話のテーマは、ビジネス上の意思決定に及んだ。
「知識により見識を高めておけば、直感的に意思決定ができるようになります。迷うことがなくなるのです」
古典に価値を見ている出口さんは、現代のベストセラー本は読まず、またビジネス書は後出しジャンケンなのでビジネスの気づきを得るためにそれらを読むことはまずないという。そんな出口さんのある著書の中で拙著『本当に使える経営戦略・使えない経営戦略』(ぱる出版)が紹介されているのは、私が大いに自慢しているところだ。
異体験と既知識を関連づける
今回出口さんのお話で印象強かったのは、「人・本・旅から学べ」ということだった。これは、米経営学者クレイトン・クリステンセン氏が『イノベーションのDNA』(翔泳社)で述べていたことと同じだ。クリステンセン氏は同書でイノベーティブな経営者は次の5つの資質を持つ、としている。
(1)関連づける力
(2)質問力
(3)観察力
(4)ネットワーク力
(5)実験力