たとえば、「牛サイコロステーキ」(590円)は熱々の状態で提供され肉自体も柔らかく満足のいく質で、「牛もつ鍋」(1人前990円)はスープに味の深みが少々足りないなと感じたものの2人で取り分けても十分なボリュームがあり、値段を考えるとコスパは高いように感じた。また、ハウスワインは500~600ミリリットルは入っていそうな大型のデキャンタで830円と、こちらもコスパの高さがうかがえた。
東京の新宿や池袋といった居酒屋激戦区では和民と同じような価格で、ウサギの餌と見まがうほど雑に野菜を盛ったサラダを提供する店や、パサパサの硬い成型肉を使ったサイコロステーキを提供する店も少なくないが、それらの劣悪店と比べればよっぽどクオリティが高いといえる。
最後に接客だが、こちらも意外に好印象。ホールは3名の従業員で回しており、社員とおぼしき男性と、アルバイトスタッフとおぼしき男性と女性が対応してくれたが、いずれも特に落ち度という落ち度は見当たらなかった。接客のスタンス自体も、かつての“元気は元気だが言葉遣いや所作が雑”なイメージはなく、常に丁寧な対応で適度に品位もあったように感じた。もちろん客足が伸びていなかったためスタッフも余裕をもって接客できていたとも考えられるが、空いた皿もすぐに気づいてバッシングしてくれたりと、ストレスなく食事やお酒を楽しめたのである。
料理6品とドリンク4品を頼み、滞在時間1時間半で会計は約6000円。1人あたり約3000円の計算で、空腹は満たされ、ほろ酔いにもなれた。料理の味、店内の雰囲気、接客の質などを踏まえると、前述したように「思っていたよりも断然よい。満足度もそこそこ」という印象を受けた。
「総合居酒屋」の限界
そこで、情報誌で数多くの飲食店取材を担当した経験のある雑誌編集者に、現在の和民を分析してもらった。
「確かに今の和民は、客単価に対しての接客や料理のクオリティは決して低くないです。10年ほど前と比べれば、格段によくなっていると思います。ただ、それは和民に限らず競合他社の居酒屋チェーン店にもいえること。5年ほど前は、味は悪くても安さで勝負というスタンスの『280円均一』などを謳った激安居酒屋が隆盛でしたが、今は時代が移り変わり、単価はそこそこ高くても味が素直に美味しいと思えるレベルの料理を出すお店でないと、客は集まらなくなっています。厳しい言い方をすれば、和民はそうした総合居酒屋のトレンドに乗っているにすぎません」
そもそも今は、肉料理に魚料理、刺身に揚げ物までなんでもござれの総合居酒屋というビジネスモデル自体が崩壊しつつあるとの意見も多い。