本連載の前回記事で、便秘薬の酸化マグネシウム製剤による副作用に関する報道記事の話題を取り上げました。その記事の多くが、分数でいう分子に当たる副作用が起きた人数のみに焦点を当てていました。しかし、副作用が1年間当たりに発生する確率を計算してみると、約0.000003%であることがわかりました。
このように、医療・健康情報を正確に読み解くには、確率に注目することが大切です。今日の医学教育の基礎を築いたサー・ウイリアム・オスラー(Sir William Osler,1849-1919)も、「Medicine is a science of uncertainty and an art of probability.(医学は不確実性の科学であり、確率のアートである)」と述べています。
医学には不確実性が伴います。
簡単に言い換えると、「すべての医療行為はグレーゾーン」あるいは「100%の効果があって副作用が0%の治療法は存在しない」となります。冒頭の酸化マグネシウム製剤も、副作用がわずかながらあるわけですから、「絶対に安全」というわけではありません。副作用の可能性があるのかと問われれば、「可能性はある」ということになります。
そこで、重要になってくるのが、その可能性は大きいのか、小さいのかという点です。
そして、その可能性の数値を許容できるのかどうかは、個人個人の判断になってきます。もちろん、場合によっては一定の基準を設けるなど、社会的に規制をすることもあります。
繰り返しになりますが、副作用が0%の医薬品はありません。基本的に医学・医療の領域でゼロリスクということはあり得ないのです。
メディアの無責任な「煽り」
ですが、世の中を見渡すと、冒頭の酸化マグネシウムの記事しかり、リスクをことさら煽っている内容の記事が多いのが現状です。記事を書く立場としては、リスクが限りなくゼロに近かったとしても必ず存在するわけですから、リスクさえ指摘しておけば嘘を書くわけではないので、過激な表現を用いて好き放題に書くことができます。
もちろん、「リスクがあることを世の中に知らせることがメディアの使命」という大義名分もあるかとは思います。しかし、だからといって、何を書いても良いというものではないと個人的には思うところがあります。
同じことは医薬品だけではなく食品でも見受けられます。当サイトにおいても、「○○は絶対に食べてはダメ」「○○は超危険!」といった過激な表現の記事が掲載されています。また、そのような記事は注目を集めやすいのか、アクセスランキングで上位になっているようです。