地上の生物はすべて太陽の恵みを受けて生きていますが、私たちが太陽についていろいろなことを知り始めたのは、ほんのこの10年程度のことです。というのも、太陽は表面温度が6000度、太陽から噴き出すコロナと呼ばれる炎の温度は500万度に達し、強力な電磁波などを太陽風として放出しているために、探査機が接近して観測することができなかったのです。
先端材料が可能にした太陽の直接観測
素材産業の進展により、炭素繊維やチラノ繊維など宇宙探査機の構造材として重要な軽量かつ強靱で、しかも太陽の高熱にも耐える材料が登場した結果、太陽に接近して観測を行うことができるようになりました。
近年の宇宙探査で太陽を本格的に観測した代表的な探査機は、NASA(米航空宇宙局)が2010年に打ち上げて現在も運用中の「ソーラー・ダイナミクス・オブザーバトリー(SDO)」です。SDOは運用開始以来、数百万枚の画像を撮影し世界各国の科学者に提供してきました。その結果、太陽の内部構造、太陽磁場、どのくらいのエネルギーを放出しているのかなど、さまざまな新たな知見が得られています。
太陽は11年周期で活動が活発になる時期と静かな時期を繰り返していますので、運用開始から10年近くが経過するSDOは、太陽活動のほぼすべてを観測したといえます。その過程で、太陽は私たちがこれまで考えていたような50億年もの長きにわたり人類に恵みを与え続けてくれる母のような優しい存在ではなく、想像を絶する激しさで荒ぶる天体であることがわかったのです。
たとえば、太陽にも竜巻があります。SDOは12年に太陽の竜巻の観測に成功しました。プラズマでできた太陽の竜巻は地球を何個も飲み込んでしまうほどの大きさで、その回転速度は地球の竜巻の600倍、時速30万kmで、音速さえもはるかに超える速度で吹き荒れていました。このような太陽竜巻は磁場の作用で形成されると考えられていますが、詳しいことはまだわかっていません。
また、太陽の表面は大きく波打っています。太陽は単純な火の玉ではなく、巨大なプラズマの波が太陽を周回するように渦巻いていることがわかりました。太陽は時々、局所的な大爆発を起こし、それはフレアとして観測されますが、このようなすさまじいエネルギーの放出が太陽全体に巨大なうねりをつくり出しているらしいことがわかっています。太陽表面に現れ、黒いシミのように観測される黒点という現象も、この太陽表面のうねりや大循環が関係していることがわかりました。
太陽にギリギリまで近づくソーラー・オービター
太陽のことをもっと知りたい。そのために、欧州宇宙機関はNASAと共同で太陽のギリギリまで接近して観測する探査機「ソーラー・オービター」を2月9日に打ち上げました。
ソーラー・オービターは水星の軌道より内側まで進行し、探査機の温度は520度にも達するため、新開発のチタン製遮熱板で搭載機器を守っています。さらに、これまで観測されたことがなかった太陽の北極と南極の人類初観測をあわせて行います。
ソーラー・オービターには10種の観測装置が搭載されており、2つのモードで観測を行います。宇宙船周辺の環境を測定し、電界や磁界、通過するエネルギー粒子や波などを検出する環境測定モードと、太陽大気と物質の流出とともに太陽を遠くから撮像し、科学者が太陽の内部の仕組みを理解するのに役立つデータを収集するリモートセンシングモードです。
それによって、太陽風や太陽磁場はどのようにして形成され、どのようにして放出されているのか。太陽系を包み込んでいるエネルギー粒子は、どのようにして生み出されているのか。太陽が宇宙空間を移動する様子と移動が太陽系に与える影響はどのようなものか。それらの壮大なスケールの観測を2年以上かけて行う計画です。
SDOは、主に太陽の表面で起きている現象を詳細に観測しています。一方で、ソーラー・オービターは太陽表面の詳細な観測はもちろんですが、太陽系と太陽の関係、宇宙空間と太陽系の関係までも明らかにしようとする野心的なプロジェクトです。観測結果は観測装置の動作試験が完了する打ち上げ数カ月後から得られるようなので、どのようなデータが届くのか、今からとても楽しみです。
(文=中西貴之/宇部興産株式会社 品質統括部)
【参考資料】
「Solar Orbiter」(NASA)
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