20年前に発生した、学校給食が原因の病原性大腸菌O157による集団食中毒の後遺症で亡くなった方がいたことが報道されました。1960年以前には年間300人近くが食中毒で亡くなっていましたが、近年は食中毒で亡くなる方が少なくなりました。
しかし、数年前に北陸の焼き肉店で牛肉の生食による大きな死亡事件が発生しました。この事件後に生牛肉の提供は、厳しい法律が施行されました。しかし、食は文化です。すべてを法律で規制するのではなく、食中毒に遭わないための知識を身につける教育が必要なのです。
小学校の家庭科の調理実習などでは、生魚・生肉など食中毒の危険性がある食材は使用しなくなる傾向にあります。本来の教育であれば、小学生の頃から潜在的な危険のある食品PHF(potentially hazardous foods)に関して充分教育を行うべきなのです。
最近は、卵かけご飯を安価で食べられる店も増えてきました。生卵を割ってふわふわになるまでよく混ぜて醤油を入れ、炊きたての白いご飯にかけて食べる卵かけご飯は本当においしいものです。特に、食欲がないときの朝ご飯にはこれ以上ないくらいに重宝します。
しかし、生卵には潜在的に食中毒を起こす危険があるのです。教育の現場においても、家庭の中にある食品が持っている潜在的危険の教育が必要なのです。「新鮮な食材であれば危険はない」と思い込むのではなく、生卵にはサルモネラ菌という潜在的危険があるという前提で取り扱うことが必要なのです。生卵というPHFを取り扱うときに、どのような点に注意すべきかを小学校の頃から徹底的に教育するべきです。
生卵の潜在的危険を理解すると、温度管理されていないところで保管、販売されている卵は安くても決して購入することはできなくなるでしょう。
アメリカ人と食事をすると、彼らは生卵や半熟オムレツなどを提供されても、決して食べません。なぜなら、子供の頃から卵の潜在的危険を学んでいるからです。
また、牛肉は病原性大腸菌が潜むPHFだと理解していれば、生の牛肉を口にする際には注意するようになるでしょう。現在、ユッケや牛肉のレバ刺しが法律で規制されていますが、鶏肉の刺身、豚のレバ刺し、生焼けのハンバーグは提供され続けています。
小学校の授業の中で、サルモネラ、カンピロバクター、病原性大腸菌の怖さや、潜在的な危険のある食品について教育を行っていれば、飲食店のメニューに載っていたとしても、客も安易に注文しなくなるのではないでしょうか。
カンピロバクターは、一度かかってしまうと下痢などの症状が治まったあとでも、後遺症の危険性があります。生焼けのハンバーグを、おいしいからといって小さな子供に食べさせることがどんなに怖いことか、考えてみませんか。
(文=河岸宏和/食品安全教育研究所代表)