田中俊之「生きづらい中年男のための処方箋」

勝ち組がつくる「普通」を放棄し、何度でも「人生をあきらめ」れば人生は楽しくなる!

小学校の「神童」がコンビニバイトの日々

田中 本を読んでいても「これはキツいなぁ」と思ったのですが、地元のコンビニで働いているから、同級生が様子を見に来るんですよね。「あの成績優秀だった山田君が、なぜこんなところでバイトを?」という感じで。

山田 おそらく、同級生の家庭では、晩ご飯の時なんかに噂になっていたんでしょう。地元は、田舎の小さなコミュニティでしたから。「勝ち」と「負け」って相対的なものだから、負けている人がいないと勝っている人もいない。だから、「山田さんち、今エラいことになってるらしいで」という話をおかずにご飯を食べることで盛り上がるし、「それとくらべて自分たちは普通だ、大丈夫だ」という確認にもなっていたんでしょうね。親からそういう話を聞いた同級生が、やっぱり見に来るわけですよ。


田中 それは、社会学的な考え方でもあります。最初から「正しい」「普通」があるわけじゃなくて、「あれはおかしい」「あいつは間違ってる」と槍玉に挙げることで、「じゃあ、その反対側は“普通”だよね」と「普通」をつくり出す。「普通」を主張する側は、それを自尊心の糧にするわけですが、否定される側の人たちはたまったもんじゃない。結局、その後は引っ越されるんですよね?

山田 実家を出て、隣町でひとり暮らしを始めました。ほとんど引きこもっていたようなものでしたが、バイトをしていても周りに知っている人がいないという気楽さはありましたね。

 ただ、それまでは「俺、めっちゃ勝ってる」という意識がありましたから。本のなかでは「神童感」などと表現しましたが、小学校では成績も運動神経もよくて、児童会長をやったりする中心的人物でした。その分、当時は「今はこんなザマか」というしんどさがありました。

「一億総活躍社会」のバカらしさ

田中 先ほどの「中年男性の7割が人生つまらない」などは、男爵はどう受け止めますか?

山田 「なんで、みんなもっとあきらめないのかな」と思います。設定しているハードルが高いというか……。世の中で良しとされている「ハツラツとした自分」「イキイキする生活」みたいなものに毒されすぎているんじゃないかと思います。そんなものを全部取っ払って、「あきらめていいのに」って思うんですよ。

 何かをあきらめることで見えてくるものもあるはずなのに、あきらめること自体が「カッコ悪い」「恥」という空気がある。誰もが主人公にならなければいけないという、少年マンガみたいな発想に縛られ続けている。そういった刷り込みが足かせになっているような気がしますが、僕は「あきらめながらも、楽しく生きればいいじゃないか」と思います。

 逆に聞きたいのですが、「仕事に生きがいを感じられない」「つまらない」と思っている人は、どうすればいいですか?

田中 最近は、会社が社員の副業を容認するケースも増え始めているのですが、そういった施策は突破口になると思います。副業でなくても、会社や家庭以外のコミュニティに属することは大切です。

 自分のスキルや趣味が生かせるような場に参加して居場所をつくったり、「パパ友」をつくって保育園でヒーローになったりするのもいいと思います。足が速くても会社の仕事では生かせないですが、保育園では「○○君のパパ、足速いよね!」とヒーローになれる。「年収」や「出世」以外の軸を生活のなかに見いだすことができれば、「それがすべてじゃない」と思えるようになり、自分の人生は広がっていくと思います。

田中俊之/武蔵大学社会学部助教

社会学博士 武蔵大学社会学部助教
1994年 都立武蔵高等学校卒業
1999年 武蔵大学人文学部社会学科卒業
2001年 武蔵大学大学院人文科学研究科社会学専攻博士前期課程修了
2004年 武蔵大学大学院人文科学研究科社会学専攻博士後期課程単位取得満期退学
2008年 博士(社会学)取得 武蔵大学大学院人文科学研究科社会学専攻甲第7号
学習院大学「身体表象文化学」プロジェクトPD研究員、武蔵大学・学習院大学・東京女子大学等非常勤講師を経て、2013年度より武蔵大学社会学部助教

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