1匹3千円に高騰…サンマ、食べないとキレやすくなる?日本人の知能が高い原因は大量の魚食?
青魚のDHAでストレスに強くなる?
DHAの機能として、最近特に注目を集めているのが“キレ予防”ともいわれる作用です。
近年は、大人も子供もさまざまなストレスにさらされ、キレやすい子供たちや駅員に暴力を振るう中年男性などが増加しています。富山大学が「DHAをたくさん摂取した大学生の行動が、どのように変化するのか」を観察する実験を行いました。
普段はあまり青魚などのDHAを豊富に含む食品を食べない約20人の学生に、毎日1.5グラム程度(サンマの刺身100グラム分)のDHAを、カプセルで3カ月摂取してもらいました。
この実験は、あえて進級試験の直前、つまり非常に大きなストレスを抱えている状況で実施されました。一般的に、ストレスがかかった状態にある人は、攻撃性が高まります。
DHAを摂取していない比較対象の学生は、試験直前になるとささいな出来事に対して攻撃性の高まりが観察されましたが、DHAを3カ月摂取した学生は、試験直前であってもまるで試験のストレスが存在しないかのように、無意識に心の平静を保っていることがわかりました。これは、DHAにストレスを緩和する作用があることを示しています。
DHAを毎日飲ませた豚の脳内には、セロトニンという化学物質が増加することが確認されています。セロトニンは、脳のなかで情報を伝達する役目をする物質です。セロトニンが関わっている神経細胞の活動が低下すると、うつ病を発症したり、自殺願望が引き起こされたり、攻撃性が高まったりすることがわかっています。
DHAを摂取すると、脳内のセロトニン濃度が上昇することによってセロトニン神経細胞が活性化し、前述のような負の精神状態に陥ることが防止されるのではないかと推測されています。
DHAは魚油に豊富に含まれているので、魚を積極的に摂取していた日本人は、もともとDHAを十分に摂取していました。ところが、近年の肉食偏重やダイエット志向によって脂っこい魚が敬遠される風潮があることから、日本人においてもDHA摂取量の減少が推測されています。先の富山大学の実験に参加した学生のDHA摂取量は、一般的な日本人の3分の1しかなかったそうです。
「仕事のストレスがひどい」「会社に行きたくない、うつ病かも」。そう思っている人は、脳内DHAの不足によって、ストレスに対する抵抗性が弱まっている可能性があります。
ストレスの原因を取り去ることができれば理想的ですが、現代社会で生活している限り、回避できないストレスも多いものです。「会社帰りにちょっと1杯」、そんな時は、意識してサンマを注文してみてはどうでしょうか? きっと、あなたの精神に脳の中から働きかけてくれるはずです。
(文=中西貴之/宇部興産株式会社 環境安全部製品安全グループ グループリーダー)
【参考資料】
「平成28年度 サンマ長期漁海況予報」(国立研究開発法人 水産研究・教育機構)
「食品成分データベース」(文部科学省)
「オメガ3系多価不飽和脂肪酸と攻撃性. FOOD Style21(富山大学医学部/浜崎景、浜崎智仁、稲寺秀邦)」(食品化学新聞社)
『食品機能性の科学』(産業技術サービスセンター)
『食べ物はこうして血となり肉となる~ちょっと意外な体の中の食物動態~』 野菜を食べると体によい。牛肉を食べると力が出る。食べ物を食べるだけで健康に影響を及ぼし気分にまで作用する。なんの変哲もない食べ物になぜそんなことができるのか? そんな不思議に迫るべく食べ物の体内動態をちょっと覗いてみよう。