建物内原則禁煙で「客離れ」説の矛盾点
愛煙家である大西議員の視界(=配慮)からはおそらく、受動喫煙を被る「子ども」や「妊婦」や「店の従業員」などの存在も消えているのだろう。
さらには、自らの心ない野次が「反対派の本音」と拡大解釈され、「愛煙家」や「飲食業者」や「たばこ農家」などの分を一挙に悪化させかねないという配慮さえ、この稚拙な政治家には皆無だったに違いない。
建物内原則禁煙に難色を示す慎重派の根拠の筆頭に「飲食店の経営悪化」説があるが、WHO(世界保健機関)の付属機関であるIARC(国際がん研究所)は、受動喫煙防止法案で「飲食店の売り上げは落ちない」と明確に結論付けている。
それは世界の報告(計169例)から「信頼性の高い49調査」を検証しても、うち47例で「落ちない」実態が読み取れたからだ。同じような傾向は、受動喫煙防止条例が施行された神奈川県の例(産業医科大学調べ)でも認められ、むしろファミリー層の来店増で「売り上げが増えた」店もある。
逆に「落ちた」というエビデンスは世界的にもないのが現状だ。そもそも「建物内原則禁煙」となれば「喫煙客」も選択肢がなくなるわけで、「客離れ=減収」という仮定自体が矛盾しているのだ。
統計学的な比較検証から得られたアルゼンチン国内のデータによれば、飲食店などでの受動喫煙に厳しい政策を導入した同国の場合、心筋梗塞の入院数が「13%減」になったという。
また、米ハーバード公衆衛生大学院の研究でも、心筋梗塞になるリスクが(自宅や職場で)習慣的に受動喫煙している人で91%上昇、(飲食店などで)時々受動喫煙する人でさえ58%も高くなるとの結果が判明している。
やはりアメリカ国内の別の研究でも、飲食店が禁煙になっている都市の場合、そうでない都市よりも「禁煙しようとする人」の割合が「3倍」になったことが示唆されている。
そんな禁煙先進国の趨勢に対し、「たばこ政策後進国」とも指弾されるわが国は、ベトナムやタイ、インド、ブラジルなどの新興国よりも「後れを取っている」と専門家筋は憂慮する。
「(がん患者は)働かなくていいんだよ!」という自民党議員の配慮を欠く暴言が反面教師となり、この「後進国」の覚醒を促し、結果「煙のない五輪」実現への追い風に変わることを願うばかりである。
(文=ヘルスプレス編集部)