国がようやく未収金の実態調査に
「観光立国」の実現を目指すなかで、医療現場に影を落としている「訪日外国人の医療費未収金問題」――。しかし、今のところ正確な統計はなく、実態が判明しない。
7月17日の新聞報道によると、厚生労働省は全国7000カ所の病院を対象に、訪日外国人旅行者の未払いの実態調査に乗り出すことを決定。来年3月までに報告書をまとめる予定だという。
また、観光庁は一昨年、損害保険会社に対して日本到着後でも加入できる保険商品の開発を働きかけた。保険各社が相次ぎ、訪日外国人向けの商品を発売している。
たとえば、損保ジャパン日本興亜は昨年9月、個人旅行者向けの保険を発売。英中韓の3カ国語対応の24時間コールセンターを設置し、約800の医療機関と提携し、顧客に33機関を紹介する。
また、同じく昨年12月に三井住友海上火災保険とあいおいニッセイ同和損害保険が始めたのは、旅館や旅行代理店などの法人向けの旅行保険。英語や中国語など12カ国語の通訳や、医療機関紹介サービスが付き、100万円を上限に医療費を負担するというものだ。
東京五輪・パラリンピックに向けて迫られる対策
外国人観光客との間で医療費をめぐるトラブルを経験した医療施設では、独自の対策マニュアルを作成したところもある。
たとえば、医療に特化した通訳を置き、事前に治療法や医療費について細かく説明。カード払いを原則として、頭金をもらうといったことだ。しかし、そうした先進的な取り組みがあっても、未収金をゼロにはできないという。
一病院でできることには限界がある。外国人観光客の患者数が毎年倍に増えている沖縄県では、行政に対して翻訳機能付きタブレット端末の導入支援や、医療通訳の設置、将来的な病院スタッフの言語教育などが課題として現場から挙がっている。いずれも病院側の財政負担を伴うことから、一定の公的補助を求める声が多い。
20年の東京オリンピック・パラリンピックでは、一定の期間に住民に加えて多様な国から旅行客が集中する「マスギャザリング」が発生し、通常の医療業務にも影響が出る可能性が指摘されている。
しかも、熱中症の多発が危惧される真夏だ。言葉の壁がある患者が多数来院したときに、緊急医療体制の質をどう維持していくのか。円滑なコミュニケーションを伴った、適切な医療を提供できる体制づくりは喫緊の課題だ。
(文=ヘルスプレス編集部)